中村功「4.1 携帯電話・PHSをめぐる人間関係」
三上俊治、是永論、中村功、見城武秀、森康俊、柳沢花芽、森康子、関谷直也「携帯電話・PHSの利用実態2000」
携帯電話(・PHS)で話す間関係にはどのような特徴があるのだろうか。携帯電話はパーソナルなメディアなので、固定電話より少数の人とだけやりとりしている可能性がある。本調査では、携帯電話でよく話す相手の人数は4−5人が39.2%、2−3人が30.3%と2−5人程度の人が多かった。この数字は確かに多くはない。しかし日常的に話す相手となると固定電話でもその数はそれほど多くない。たとえば97年に著者が松山市で行った調査「松山調査」では、(中村、1999)仕事以外で日頃電話する相手を15人まで書き出してもらったところ、1人が13.1%、2-3人が28.8%、4-5人が22.1%と5人以内の人が64%に達している。調査方法が違うので一概にはいえないが、携帯電話では固定電話より日常的に話す相手が若干少ないものの、その差はあまり多くないようである。これは携帯電話が次第に固定電話と同様に使いこなされてきたことを意味しているのかも知れない。また相手の数に関しては、特に若者で多い、というような傾向はなく、年齢・職業で差はなかった。ただ、性別では女性のほうが若干人数が少なかった。
図4.1.1 よく話す相手の数(性別) χ2 *p<.05
よく話す相手の種類では、同居の家族が62.2%と最も多かった。一般に固定電話では最もポピュラーな電話相手は友人である。たとえば先の松山調査では仕事以外で日頃電話する相手の54.2%が友人で、親族が23.1%、家族が15.0%、その他が7.8%であった。この調査では相手の数を聞いているので、その点を考慮しなくてはならないが、今回の調査では同居家族との通話をする人が多いのが特徴である。また「もっとも話をすることが多い相手」としても31.1%と、最も多くの人が同居家族をあげている。これは外出時の帰るコールや、ちょっとした用件連絡に携帯電話がよく使われていることを反映しているのであろう。(もっとも、今回の調査では友人を「よく会う友人」と「あまり会わない友人」に分けて聞いたために友人の%が少なく見えるが、両方をあわせれば友人が必ずしも少ない訳ではない。)
しかし同様な方法で、携帯電話の通話相手を聞いた他の調査と比較しても、今回の調査では家族が高い割合を占めている。たとえば1999年に東京30キロ圏で行った調査(橋元他2000)では、日常的な携帯電話の相手として友人をあげる人が73.9%と最も多く、同居の家族をあげた人は55.3%だった。今回の結果を社会属性別に分析すると、同居家族と話すのは女性が多く、年齢では30代から50代の中年層、職業では主婦で多かった。99年の調査に比べて、今回の調査では回答者(利用者)に中年層や主婦層が多くなったために、このような結果になったのかもしれない。
図4.1.2 よく話す相手の種類(性別)χ2 *p<.05 **p<.01
図4.1.3よく話す相手 (年齢別) χ2 *p<.05 **p<.01
同居家族についでよく話す相手は、普段よく会う友人であるが、属性別に見ると女性、年齢層では10代20代の若年層で著しく多くなっている。若い人では携帯電話でよく話す相手としては「よく会う友人」が最も多くなっている。ついで多いのが「同じ勤務先の人」で、全体で3割の人があげていた。特に男性、および30代40代の中年層、フルタイムで働いている人などで高い割合となっている。いずれにしても「同居の家族」「よく会う友人」「同じ勤務先の人」など、携帯電話では日常的によく会う相手との通話が多いといえる
図4.1.4 よく話す相手の種類(職業別) χ2 *p<.05 **p<.01
4.2 電話番号を教える範囲
携帯電話の交際範囲の広がりは一般の電話とどう違うのか。携帯電話の電話番号はごくした親しい人にしか教えないという人は66.1%、逆にできるだけ多くの人に教えるようにしているという人は9.4%であった。ここから、携帯電話番号の流通は固定電話に比べると狭い範囲で行われることが多いといえる。親しい友人や家族には教えても、親戚などには教えていないのであろう。性別では男性の方がより広く電話番号を教えようとする傾向がある。女性は様々なトラブルに巻き込まれることを警戒して、慎重な姿勢になっているのかも知れない。また年齢別では年齢が高くなるほど親しい人にだけ教える傾向が強くなっている。職業別では、学生が親しい人にだけ限定する傾向が著しく低く、(32.8%、)気軽に電話番号を教える傾向がある。
図4.2.1親しい人にだけ電話番号を教える人(性別・年齢・職業別χ2 *p<.5 **p<.01
表4.2.1できるだけ多くの人に番号を教える人(性別・年齢・職業別)
全体 | 性別**
男 女 | 年齢 *
10 20 30 40 50 60 | 職業 ns.
フルタイム パート 主婦 学生 無職 p |
9.4 | 12.7 5.1 | 20.5 14.0 7.5 5.3 4.6 3.9 | 7.6 9.3 6.1 19.0 11.1 |
χ2 *p<.05 **p<.01
しかし、実際に電話番号を教えているかをたずねると、0-5人と少数の人が17.9%いたものの、6-10人が22.5%、21-40人が15.6%、16-20人が11.6%、11-15人が10.4%と、6-40人の人が半数以上おり、意外と多くの人に教えていることがわかる。また教えている人数に性別による違いはカイ二乗検定の結果ではみられなかった。年齢的には低い層、職業
的には学生の人数が多くなっている。
図4.2.2 携帯番号を教える人数(全体)
表4.2.2 携帯番号を教える相手の数(年齢・職業別)
人数 | 年齢**
10 20 30 40 50 60 | 職業**
フルタイム パート 主婦 学生 無職 | 0-5
6-10
11-15
16-20
21-40
41-60
61-80
81-100
100-150
150- | 6.8 12.2 18.1 18.4 25.8 38.5
6.8 13.1 26.6 30.3 30.3 30.8
6.8 3.7 13.8 10.5 16.7 15.4
15.9 11.2 13.8 9.2 12.1 3.9
22.7 19.6 14.9 14.5 9.1 7.7
11.4 18.7 5.3 7.9 6.1 3.9
9.1 9.4 2.1 4.0 0 0
11.4 3.7 2.1 1.3 0 0
9.1 7.5 1.1 1.3 0 0
0 0.9 2.1 2.6 0 0 | 17.2 24.1 27.3 5.2 33.
22.8 33.3 30.3 6.9 22.2
12.0 3.7 15.2 5.2 16.7
11.6 7.4 12.1 15.5 11.1
16.0 20.4 6.1 19.0 0
9.6 5.6 6.1 19.0 5.6
4.0 1.9 0 12.1 5.6
2.8 0 0 6.9 5.6
2.4 3.7 0 10.3 0
1.6 0 3.0 0 0 |
| |
χ2 **p<.01
4.3 携帯電話で最もよく話す人と会う回数の変化
移動電話で最もよく話す人と直接会う回数の変化をきいたところ、変わらないと言う人が83.7%と大半を占めた。これによると対面接触への影響はあまり多くないようである。ただ、影響が出た人の中でその方向性を見ると、増えた人が11.7%と、減った人の3.8%をかなり上回っており、対面接触を増加させる傾向が若干みうけられる。なお、この項目に関しては性別年齢、職業に関する差が全くみられなかった。
図4.3.1 移動電話で最もよく話す人と会う回数の変化
4.4 携帯電話特有の人間関係
携帯電話の常時接触可能性を利用して、24時間つねにべたべたとつきあう間柄は「フルタイム・インティメイト・コミュニティー」と呼ばれることがある。「さっき会ったばかりの友人・恋人と携帯電話でだらだらとおしゃべりをすることがある」と携帯電話を使ってフルタイム・インティメート・コミュニティーを実践している人は、10代や学生といった若者層で2割程度の人に見られた。また性別では女性にこの傾向が強い。
χ2 *p<.05 **p<.01
図4.4.1 会ったばかりの友人・恋人と携帯電話でだらだらおしゃべりする人(%)
表4.4.1 通話相手の選択傾向
| よくある 時々ある 数回したことある したことはない | 留守電で相手を選択
発信者番号で選択
電波が悪いといいわけ | 4.8 16.5 12.1 66.6
9.2 20.3 17.7 52.8
1.2 6.5 13.1 79.2 |
| |
図4.4.2 発信番号で相手を選択(よくある+時々ある+数回したことある)
χ2 *p<.05 **p<.01
一方、通話相手を選択しようという傾向もある。いつも留守番電話にしておいて、通話相手を選択する人は「よくある」と「時々ある」をあわせて、21.3%いた。(数回したことのある人以上の経験者は34.0%)。また発信者番号により相手を選択している人は「よくある」「時々ある」あわせて3割(29.5%)おり、経験者は47.2%と半数近くに達した。発信者番号による選択はかなり行われているようだ。その一方通話中に電波の不安定さをいいわけに電話を切る人は、経験者で20.8%いるが、「よくある」「時々ある」をあわせても1割に満たない。通話相手選択行動を行う人は一定数いるものの、通話中に電話を切ることには心理的抵抗があるようである。
この行動を社会属性別にみると、性別による差はみられなかった。年齢別にみると3行為とも経験率は20代が最も高く、ついで10代が高かった。このように若者を中心に相手を選択する行為が広がっている。とくに発信者番号で相手を選択する行為は、10代・20代では半数以上が経験を持っているのに対し、50歳以上では10%代と、年齢による差が著しい。高齢層で一般化している、かかってきた電話には出なければならない、という強迫観念が若年層では少なくなっているようである。
表4.4 通話相手選択の経験率(よくある+時々ある+数回したことある)
| 年齢
10 20 30 40 50 60 p | 職業
フルタイム パート 主婦 学生 無職 p |
留守電で選択
電波が悪いと切る | 27.6 49.5 34.0 22.4 31.8 11.5*
25.0 34.6 17.0 14.5 10.6 15.4* | 37.6 29.6 24.2 29.3 16.7 ns
21.2 20.4 12.1 24.1 22.2 ns |
χ2 ns.p>.05 *p<.05 **p<.01
職業では、発信番号の表示で相手を選択する行為で、学生の経験率が著しく高かった。しかし意外なことに、他の2つの質問ではそうした違いはみられなかった。これらの項目では20代の勤め人の割合が比較的高いためであろう。それに対して発信者番号における選択は若者というより、特に学生によくみられる現象であるといえる。
このようにみると携帯電話の普及で、常時連絡を取り合うような人間関係や、通話相手を選択したりする関係が、特に若者の間で徐々に広がりつつあるといえる。しかしそうした行為を頻繁に行うのは若者にあっても1〜2割程度であり、まだ多数派とはいえない。
文献
中村功「電話コミュニティー−その実態とコミュニケーションの重層性について−」『松山大学論集』1999.307-328
橋元良明、石井健一、中村功、是永論、辻大介、森康俊「携帯電話を中心とする通信メディア利用に関する調査研究」『東京大学社会情報研究所調査紀要』No.14,2000,83-192