携帯メール
フルタイム化する若者の人間関係                   中村 功 
 小さな画面を凝視しながら、若者たちがさかんに携帯電話のボタンを押している。ちかごろ、街でよく見かける風景だが、彼らのやっているのが、今はやりの携帯メールだ。われわれが昨年行った調査によれば、8割以上の学生が携帯メールを利用し、毎日5回以上メールをする者が4割近くを占めた。その広まりや、利用の活発さには目を見張るものがある。はたから見るとなにやら不可解な若者の行動だが、全国の携帯電話利用者にアンケート調査をしたり、メールの実例を学生から集めてみると、次のようなコミュニケーションの実態が明らかになってくる。
 第一に、携帯メールの主な相手は、ふだんよく会う友人や、遠くに住む昔の友人である。その一方、メールだけでやりとりをする、いわゆる「メル友」は少ない。第二に、やりとりされる内容は、待ち合わせの約束とともに、その時々の出来事や気持ちの伝達といった、おしゃべり的内容が多い。携帯電話では用件連絡が主となるが、それとは対照的である。第三に、携帯メールには、絵文字、方言、擬音語、長音符号、幼児化表現等の、表現上の特徴がみられる。
 たとえば、「今日まじて寒いよねー  学校の行き帰りがつらいさ ていうか明日統計学やん...もう数字見たくない 」これは、現況報告とその時々の感情表出を内容としているが、最も典型的な携帯メールの例である。そのほか、身の回りのちょっとした話題や、幸福の手紙めいた「チェーン・メール」も多い。その一方、「進路についていろいろ悩みまくっています。大学生になっとけばよかったと常日頃感じております 」などといった、真剣な相談ごともある。
 こうした利用実態をみると、次のような影響が考えられる。第一に、携帯メールでは、よく会う間柄で、ちょっとした感情が常にやりとりされていることから、フルタイム化した緊密な人間関係の形成が考えられる。会っては話し、別れても携帯メールで常におしゃべりする「べたべた」とした関係である。第二に、そうした間柄で、待ち合わせの道具としても利用されることから、携帯メールは、対面接触を活性化したり、人間関係を深化させたりするのではないだろうか。第三に、携帯メールでは、感謝や励ましなど、面と向かって言いにくいことが言いやすくなる。これは、表情や声色が伝わらない「手がかりの少なさ」が原因となっている。ニュアンスの伝わりにくさによるトラブルを避けるために、絵文字が多用され、一定の効果をあげている。しかし、受け手の反応が伝わりにくい、元気さや思いやりをとりつくろいやすい、等の問題もある。利用者は対面コミュニケーションとの違いを認識し、メールだけに頼らないことが重要であろう。第四に、携帯メールはかつての人間関係を維持する道具ともなっている。ふだんあまり会わない友人とやりとりする人が、利用者の4割程度いるが、その多くは、進学や就職で離ればなれになった友人たちである。通信コストの安さもあり、こうした間柄で、日常のちょっとした出来事や、気持ちがやりとりされているのである。
 「おはよう!食料の備蓄状態はどうですか?いつものなら送れるよ!」これはある下宿生への母親からのメールだ。携帯メールの人間関係といっても、多くは学校の友人や親子など、従来の人間関係を背景にしている。そしてその影響も、基本となる人間関係のあり方に大きく左右されるのである。