第3章.地下街通行者の水害意識に関する調査

3.1.調査の目的

平成11年6月29日に福岡市で発生した水害では、博多駅周辺の地下街が大いに被害を受けた。テナントは最大1メートルにも及ぶ浸水のため営業不能となり、周辺ホテルの地下電源設備は水没し、地下鉄・JRは流れ込む大量の雨水により運休となった。当時、地下で職務についていた地下街店員・地下鉄職員は、未経験の浸水に驚く通勤客・買い物客を地上へと安全に誘導するために各種対策を行った。例えば福岡市地下鉄では、流速の速い浸水口となった筑紫口側地上出口の利用を禁止し、比較的水量の少なかった博多口に誘導するために、バリケードを築き、放送を繰り返すなどの避難誘導を行った。それでも、可能な限り早く地上に出たい、筑紫口の方が自宅に近いなどの理由で、職員の静止を振り切って水の流れ落ちる階段を上がっていった人も何人かいたとの事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3−1:市営地下鉄博多駅平面図

 
 

 


今回の水害の最大の特徴は、某ビル地下階飲食店で店員が1名水死し、都市型水害が人命をも脅かす危険として再認識されたところにある。幸い、大量の通過利用客をかかえる福岡駅および周辺地下街においては人的被害が発生しなかったが、都市化の進行により今後、集中豪雨などによる地下空間の浸水危険性はより一層、高まっていくものと推定される。

本調査の目的は、地下鉄・JR駅構内や周辺地下街(商店街)といった不特定多数収容施設において、安全かつ迅速な避難誘導を実現するために、どのような対策が講じられるべきであるかを、一般利用客の心理・対応行動を把握することにより、検討することである。調査対象として、今回の水害で被害を受けた福岡駅地下街と、都市部で浸水の危険性を抱える地下街の代表例として、浅草の地下街をとりあげ、平日・休日の利用客の水害に対する心理をインタビュー調査で収集した。

 

3.2.調査概要

 

1)調査件名

河川災害情報の高度化及び危機管理に関する意識調査

2)調査実施地

(1)福岡県福岡市「博多駅周辺地下街」

              ・デイトス地下街(筑紫口)

(2)東京都台東区「浅草地下街」

・松屋デパート口地下街

・営団浅草駅地下街

・営団浅草駅〜都営浅草駅地下通路

3)調査対象者

(1)〜(2)地下街の通行者及び利用者のうち、15歳(高校生)以上の男女

4)調査方法         

面接聴取法

調査員が来街者に対し、聴き取りで調査を行った

5)調査日時

(1)「博多駅周辺地下街」

平成12年2月27日(日)、2月28日(月)

午前11時〜午後6時

(2)「浅草地下街」

平成12年3月12日(日)、3月13日(月)

午前11時〜午後6時

6)有効回収サンプル          

(1)「博多駅周辺地下街」

平日339サンプル(男性125、女性214)

休日306サンプル(男性113、女性193)

合計645サンプル(男性238、女性407)

(2)「浅草地下街」

平日315サンプル(男性152、女性163)

休日318サンプル(男性143、女性175)

合計633サンプル(男性295、女性338)

7)調査票の構成

調査票は大別して4部分から成っている。

フェイスシート:F1〜F4

T:地下空間利用状況(問1〜問4)

調査対象者の地下街利用頻度・利用目的・地理精通度などを測定する。

U:地下街水害不安度(問5〜問11)

調査対象者が地下街において水害が発生する可能性や、実際に浸水が足元まで来た際に感じる不安度などを測定する。

V:避難時の情報ニーズ(問12〜問15)

地下街から地上に避難する際に、避難を呼びかける放送や誘導の必要性、また同時に知らせてほしい情報を把握する。

 

本意識調査に用いた調査項目を以下に挙げる。(全文は附録1参照)

 


F1:性別

F2:年齢

F3:調査時刻

F4:災害弱者としての識別

問1:居住地域

問2:地下街の利用頻度・時間帯

問3:地下街利用目的

問4:地下街地理精通度

問5:地下街で発生しそうな災害

付問5:水害が発生しそうだと思う理由

問6:地震・火災・ガス爆発・水害不安度

問7:三笠川・荒川の氾濫可能性

問8:地下街が水につかる可能性

問9:浸水がくるぶしまで来た時の不安度

問10:浸水時の行動

問11:エレベーター・エスカレータ利用不能時の不安度

問12:避難を呼びかける放送への対応行動

問13:避難を呼びかける放送の重要度

問14:避難誘導の重要度

問15:避難時に必要な情報


 

3.3.調査結果1:

「博多駅周辺地下街」平日・休日比較

まず、博多駅筑紫口の、デイトス地下街において、実施した調査結果を総括する。

 

平日データと休日データの採取日は以下の通りである。

平日:平成12年2月28日(月)

休日:平成12年2月27日(日)

両日ともに、午前11時〜午後6時の約7時間連続して面接調査を行った。

 

<フェイスシート>

まず、調査サンプルの特性を整理する。

サンプル数は、平日339サンプル、休日306サンプルであり、男女比は双方ともに、男性36.9%、女性63.1%である。

次に調査対象者の年齢分布であるが、平日では20代以下が50.9%と半数以上を占めているのに対し、休日では60歳以上の割合が上昇し、あらゆる世代の回答を収集することができた。これは、平日は通勤・通学時に利用する青年層が多いのに対し、休日では、家族レクリエーションなどを目的として高齢者や中年層の地下街利用機会が増すことを示すと考えられる。(図3−2)

 

表3−1:(F2)年齢

回答

平日

割合

休日

割合

0代以下

176

51.9%

112

36.6%

0代

46

13.6%

49

16.0%

0代

45

13.3%

45

14.7%

0代

46

13.6%

56

18.3%

0歳以上

26

7.7%

44

14.4%

 

災害弱者を抱える世帯の割合については、休日が9.5%と平日(2.9%)よりもやや高かった。

 

表3−2:(F3)災害弱者有無

回答

平日

割合

休日

割合

有り

0

2.9%

29

9.5%

特に無し

329

97.1%

277

0.5%

 

<T:地下空間利用状況>

居住地域は、平日では福岡市内が6割以上を占めるのに対し、休日では市内在住者と市外在住者が半々であった。やや休日の方が市外からの来訪者が多いといえる。

 

表3−3:(問1)居住地

回答

平日

割合

休日

割合

福岡市内

09

61.7%

154

0.3%

福岡市外

130

38.3%

152

49.7%

 

この相違は利用頻度(問2)に反映され、平日では週に4〜5回利用する常時利用者の割合が25%を上回るのに対し、休日では10%強であった。下表の通り、平日利用者に比べて、休日利用者は地下街の利用頻度が低く、7割以上が月に数回以下利用すると回答している。(「月に数回」「年に数回」「ほとんど利用しない」の合計が72.2%)

 

表3−4:(問2)地下街利用頻度

回答

平日

割合

休日

割合

週に

4〜5回

85

25.1%

32

0.5%

週に数回

74

21.8%

53

17.3%

月に数回

79

23.3%

02

33.3%

年に数回

39

11.5%

45

14.7%

ほとんど利用しない

62

18.3%

74

24.2%

 

利用時間帯については、休日・平日ともに13:00〜18:00が6割弱を占める。若干差異が見られるのは、平日は12:00〜13:00が休日に比して多く、休日は18:00以降が平日よりも多くなっているところである。この結果から、博多駅がビジネス街の中心に位置し、平日には会社昼休みの利用が行われること、休日には行楽の締めくくりの夕食や帰宅時の経路として遅い時間に利用されることが推定される。

 

表3−5:(SQ問2)利用時間帯

回答

平日

割合

休日

割合

9:00以前

2.4%

2.3%

9:00〜12:00

32

9.4%

38

12.4%

12:00〜13:00

77

22.7%

44

14.4%

13:00〜18:00

197

58.1%

173

56.5%

18:00以降

25

7.4%

44

14.4%

 

また、利用目的については平日・休日ともに6割以上が買物を、4割が食事を挙げている。次いで、2割弱が地下鉄利用・通路としての利用を挙げている。当然、仕事・商用、通勤・通学を目的とする利用は平日の方が多く、旅行・観光目的の利用は休日の方が多い。

 

表3−6:(問3)利用目的

回答

平日

割合

休日

割合

買物

09

61.7%

05

67.0%

食事

143

42.2%

121

39.5%

地下鉄利用

59

17.4%

56

18.3%

仕事・商用等

45

13.3%

23

7.5%

通勤・通学

32

9.4%

11

3.6%

通路として

58

17.1%

0

13.1%

旅行・観光等

16

4.7%

22

7.2%

天候が悪いとき

0

2.9%

0.7%

その他

23

6.8%

13

4.2%

 

こうした利用者特性の差異の割には、地下街の出入り口や通路などの地理精通度には、大きな差がみられなかった。

 

問4で『あなたは、ここの地下街の出入口の位置や通路について、どの程度ご存知でしょうか。』と質問したところ、平日・休日ともに4割が「だいたい知っている」と回答し、3割が「一部しか知らない」と回答している。ただ、平日は「ほとんど知っている」という回答が16.5%であるのに対し、休日は10.8%であることが特徴的である。その分休日は「全く知らない」と回答した比率が若干高くなっている。

 

表3−7:(問4)入り口の場所や通路の把握

回答

平日

割合

休日

割合

ほとんど知っている

56

16.5%

33

0.8%

だいたい知っている

142

41.9%

129

42.2%

一部しか

知らない

02

0.1%

00

32.7%

全く知らない

39

11.5%

44

14.4%

 

つまり、地下街地理把握状況における差異は、平日は十分に地理に精通している層が比較的多いのに対し、休日は全く地理を把握していない層が若干多いというところに帰される。こうした極端な層を除けば、7割方の利用者は、どちらの条件においても4割は「ほとんど知っている」・3割が「一部しかしらない」という状況に、代わりがないといえる。

 


<U:地下街水害不安度>

では、地震・火災・ガス爆発・水害のうち地下街で発生しそうな災害を、全て挙げて頂いた結果を以下に示す。(問5)

 

表3−8:(問5)地下街で発生しそうな災害

回答

平日

割合

休日

割合

地震

110

32.4%

79

25.8%

火災

01

59.3%

156

51.0%

ガス爆発

88

26.0%

76

24.8%

水害

219

64.6%

174

56.9%

 

全体的に火災と水害を挙げた人は5割以上であり、他の2災害よりも地下街と結び付けやすいことをうかがわせる。平日と休日との回答を比較すると、分布はほぼ同じであるが、休日の方がいずれも回答割合がやや低めである。特に、水害・火災を挙げた割合は平日利用者の方が8%程度高く、休日利用者よりもシビアな感覚を持っていることをうかがわせる。この差異は、平日利用者の方が市内在住率や利用頻度が高く、福岡水害の記憶を鮮明に残していることによるものだろう。

 

さらに、付問5において「水害が発生しそうだと思う理由」を調査したが、平日・休日問わず、「地下での水害を知っているので」を挙げる人が6割を占めており、福岡水害の経験が水害への防災意識を啓発していることが確認できた。

 

表3−9:(SQ5)水害が発生しそうだと思う理由

回答

平日

割合

休日

割合

過去に水害を経験しているので

51

23.3%

35

0.1%

地下での水害を知っているので

130

59.4%

03

59.2%

三笠川が近くにあるから

51

23.3%

36

0.7%

なんとなく

51

23.3%

28

16.1%

その他

1.4%

0.6%

 

次いで問6では、地下街利用時に@地震、A火災、Bガス爆発、C水害が発生したと仮定し、どの程度不安に思うかを質問した。

 

結果は、次頁表3−10@〜Cの通りであり、どの災害についても、60%前後が「非常に不安」と回答し、10〜15%が「余り不安を感じない」「全く不安を感じない」と回答した。前者を敏感層と捉えることはできるが、後者を鈍感層と一概にくくることはできない。なぜなら、地理に精通し冷静に避難行動をとることができるから不安でないと回答した層と、全く災害発生がイメージできないから不安でないと回答した層が混在していると考えられるからである。

ただ、災害の種類に関係なく、発災時に非常に不安を感じる利用者が6割を占めるということは、避難誘導を行う側にとって留意すべき事実である。


表3−10:(問6)@地震

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

192

56.6%

180

58.8%

不安

05

31.0%

81

26.5%

あまり不安を

感じない

38

11.2%

41

13.4%

全く不安を
感じない

1.2%

1.3%

 

表3−10:(問6)A火災

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

189

55.8%

178

58.2%

不安

114

33.6%

95

31.0%

あまり不安を
感じない

33

9.7%

31

0.1%

全く不安を
感じない

0.9%

0.7%

 

表3−10:(問6)Bガス

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

06

0.8%

191

62.4%

不安

89

26.3%

79

25.8%

あまり不安を
感じない

0

11.8%

31

0.1%

全く不安を
感じない

1.2%

1.6%

 

表3−10:(問6)C水害

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

193

56.9%

184

0.1%

不安

03

0.4%

77

25.2%

あまり不安を
感じない

37

0.9%

38

12.4%

全く不安を
感じない

1.8%

2.3%

 

問7では「大雨で三笠川の堤防が壊れる可能性」について質問したが、平日61.6%、休日62.1%が「非常に高い」「高い」と回答した。

 

続く問8で「三笠川の水が溢れて地下街が水に浸かる可能性」を聞くと、平日68.1%、休日69%が「非常に高い」「高い」と回答している。

 

このように、付近河川の溢水可能性や地下街の浸水可能性について、平日・休日利用者の間で意識の差異は見られず、6割〜7割が危険を認識しているのに対し、3割〜4割が楽観視しているという分布であった。ちなみに、三笠川の氾濫可能性よりも、地下街浸水可能性の方が若干高く見積もられている。

 

表3−11:(問7)大雨で三笠川の堤防が壊れる可能性

回答

平日

割合

休日

割合

非常に高い

56

16.5%

62

0.3%

高い

153

45.1%

128

41.8%

あまりない

118

34.8%

07

35.0%

全くない

12

3.5%

2.9%

 

表3−12:(問8)三笠川の水が溢れて地下街が水に浸かる可能性

回答

平日

割合

休日

割合

非常に高い

96

28.3%

81

26.5%

高い

135

39.8%

130

42.5%

あまりない

00

29.5%

88

28.8%

全くない

2.4%

2.0%

わからない

0

0.0%

0.3%

 

さらに、この災害発生可能性に対する認識が、地下街地理精通度とどの程度関係しているかを検討する。

問2の回答で「ほとんど知っている」「だいたい知っている」と回答した人を『地理精通』層、「一部しか知らない」「全く知らない」と回答した人を『地理不案内』層として、平日・休日のデータを総合して分析した結果、表3−13・表3−14を得た。

 

表3−13:地下街地理精通度と三笠川破堤可能性認識の関係        図3−2:地下街地理精通度と三笠川破堤可能性認識の関係

回答

地理精通

地理不案内

実数

割合

実数

割合

非常に高い

78

21.7%

0

14.0

高い

171

47.5%

110

38.6%

あまりない

0

29.2%

120

42.1%

全くない

1.7%

15

5.3%

地理精通:N=360、地理不案内:N=285

 

 

 

図3−2の通り、地下街の出入り口等の地理に精通している利用者は、三笠川が破堤する可能性についてかなりシビアな認識をもっているといえる。彼らは、福岡市内在住率が高く(65.3%)、地下街利用頻度も高い(週に4〜5回利用が29.2%)層であり、今回の水害を実際に経験した人達であると推定される。

問8についても同様で、地下街の地理に不案内な人達よりも、浸水可能性を高めに評価する傾向があった。博多駅周辺地下街を日常的に利用し、慣れ親しんでいるからこそ、福岡水害の経験により、彼らの防災意識が現実的なレベルまで引き上げられていることが判明した。

 

表3−14:地下街地理精通度と地下街浸水可能性認識の関係                 図3−3:地下街地理精通度と地下街浸水可能性認識の関係

回答

地理精通

地理不案内

実数

割合

実数

割合

非常に高い

110

0.6%

67

23.5%

高い

148

41.1%

117

41.1%

あまりない

96

26.7%

92

32.3%

全くない

1.7%

2.8%

地理精通:N=360、地理不案内:N=285(内、DKNA1名)

 

問9〜問11では災害時の対応行動の実際を探るために、『地下街にいる時に、雨水が、自分のくるぶしくらいまでたまった』『水がたまってきて、エレベーターやエスカレーターが利用できなくなった』など、具体的な災害シナリオを前提として、質問を行った。

 

問9では、浸水がくるぶし位までたまった時の不安度を測定したが、「非常に不安」「不安」という回答が、平日81.5%、休日83.1%と大半を占めた。浸水のように具体的に目に見える脅威が迫った場合には、大部分の人が不安を感じるといえる。

 

表3−15:(問9)地下街で雨水がくるぶし位までたまった時の不安度

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

127

37.5%

140

45.8%

不安

149

44.0%

114

37.3%

あまり不安を感じない

52

15.3%

49

16.0%

全く不安を感じない

11

3.2%

1.0%

 

続く問10では、浸水がくるぶしくらいまでたまった場合、どんな対応行動を採るかを質問したところ、平日79.4%、休日76.5%が「近い出口から地上に出る」と回答しており、何はさておき地下空間から脱出したいという意識が働くことが推定される。一方、「管内放送や関係者の指示に従う」と回答した人は、平日16.8%、休日20.6%であり、やや休日の方が施設管理者の指示に従う層が多いといえる。

 

表3−16:(問10)その際の対応行動

回答

平日

割合

休日

割合

館内放送や関係者の指示に従う

57

16.8%

63

0.6%

近い出口から
地上に出る

269

79.4%

234

76.5%

そのまま地下を
歩き続ける

12

3.5%

1.6%

その他

0.3%

1.0%

わからない

0

0.0%

0.3%

 

問11で、『水がエレベーターやエスカレーターが利用できなくなったらどのくらい不安を感じるか』を質問したところ、「非常に不安」という回答が、平日46.6%、休日52.3%となり、問9の『くるぶしくらいまで』の浸水よりも不安度が高くなることが分かった。

 

さらに、「非常に不安」「不安」を合計した場合、平日は74.9%にとどまり、休日は84.3%と、10%近い差異が認められた。

 

表3−17:(問11)水がたまりエレベーターなどが利用できない時の不安度

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

158

46.6%

160

52.3%

不安

96

28.3%

98

32.0%

あまり不安を感じない

77

22.7%

39

12.7%

全く不安を感じない

2.4%

2.9%

 

問11の不安度が高いことは、利用頻度(問2)や地理精通度(問4)とは全く関係なく、休日利用者の特徴であるといえる。

 

ではなぜ、休日利用者は問9では平日利用者と同程度であったのに、問11においてはより高い不安度を回答しているのだろうか。

 

サンプル数が十分でないため、はっきりと因果関係を立証することはできないが、一つには、災害弱者の有無(F4)と関連すると予想される。

 

表3−18:災害弱者の有無とエレベーター等休止時不安度の関係

回答

災害弱者有り

災害弱者無し

実数

割合

実数

割合

非常に

不安を感じる

23

59.0

295

48.7%

不安を

感じる

0

25.6%

184

0.4%

あまり不安を

感じない

15.4%

110

18.2%

全く不安を

感じない

0

0

17

2.8%

災害弱者有り:N=39、災害弱者無し:N=60

 

0%程度であるが、災害弱者有り世帯の人の方が、「非常に不安」と回答した比率が高かった。

 

問11の『水でエレベーターやエスカレーターが利用できなくなったら』という仮定は、自力での移動が難しい災害弱者を抱えている人にとって、強い不安を喚起するものであるといえる。よって、災害弱者有りという回答が多かった休日の方が、問11の不安度が高くなったと推定される。

 

また、他の理由として、平日は単身で利用する20代以下会社員・学生が多いのに対し、休日の場合家族連れが多く、いろいろな世代の同行者と一緒に避難しなければならないことが挙げられる。

 

平日利用者は地下街施設に浸水による影響が出ていても、身軽に階段を駆け上がって地上へ脱出できるのに対し、休日利用者は同行者の安全を確保し、はぐれないよう配慮しながら移動しなければならない。それゆえに多量の人員を一時に輸送できるエレベーター・エスカレーターの利用不能は「非常に不安」と感じられるのではないだろうか。

 

この仮定が成り立つのならば、平日利用者よりも休日利用者の方が、地下街における『浸水による停電』『出口混雑』『情報混乱』といった場合にも、強い不安を持つと類推される。

 

 


<V:避難時の情報ニーズ>

問12〜問15では、施設管理者の行う情報提供や避難誘導に対するニーズを把握した。

 

まず問12では地下街で避難を呼びかける放送が流れた場合の対応行動を調査したが、平日、休日ともに74%程度が「避難する」と回答した。次に「様子を見る」が平日20.1%、休日14.7%であり、「まわりの人と同じ行動をとる」という回答は少数にとどまった。

 

表3−19:(問12)地下街で避難勧告放送が流れたときの行動

回答

平日

割合

休日

割合

避難する

251

74.0%

226

73.9%

様子を見る

68

0.1%

45

14.7%

まわりの人と同じ行動をとる

0

5.9%

35

11.4%

 

問13では避難を呼びかける放送が、自らの避難行動に対してどの程度重要であるかを質問したが、「とても重要」と、平日74.0%、休日82.4%が回答しており、利用者の避難意思決定が施設管理者の呼びかけに依存している状況が明確になった。反対に「あまり重要でない」「重要でない」と回答した人は、平日3.6%、休日1.0%に過ぎなかった。

 

この結果は、地下街は外部の状況がわかりにくく、利用者自身の知覚で危険度を判別しにくいためであると推定される。

 

表3−20:(問13)水害発生時に避難する上での避難勧告放送の重要度

回答

平日

割合

休日

割合

とても重要

264

77.9%

264

86.3%

重要

63

18.6%

39

12.7%

あまり

重要でない

2.7%

1.0%

重要でない

0.9%

0

0.0%

 

問14では、避難誘導の重要度を質問したが、平日74.0%、休日82.4%が「とても重要」と回答しており、「あまり重要でない」「重要でない」という回答は合計でも5%未満にとどまった。

 

表3−21:(問14)水害発生時に避難する上での避難誘導の重要度

回答

平日

割合

休日

割合

とても重要

251

74.0%

252

82.4%

重要

72

21.2%

46

15.0%

あまり重要でない

13

3.8%

2.3%

重要でない

0.9%

0.3%

 

問15では、地下街から避難する際の情報ニーズを複数回答で収集した。「どこから脱出すればよいか」が平日・休日ともに8割近くの人によって選ばれ、次いで「雨水が流れ込むところ」「通れない箇所」が平日54.0%、休日50.7%の人から挙げられた。

 

この結果からも、避難時にはまずほとんどの人が地上への脱出口を求めて移動することが分かった。そして、ルート選択に有効な情報として、浸水口・通行不能箇所を欲していると考えられる。

「いつ頃地下街への浸水が予想されるか」「外での降雨状況」「鉄道などの運行状況」は20%台にとどまり、あくまで二次的な情報ニーズであることが判明した。

 

表3−22:(問15)地下街から避難する際に必要と思う情報

回答

平日

割合

休日

割合

外でどのくらい雨が降っているか

96

28.3%

83

27.1%

河川の出水や氾濫の可能性

88

26.0%

58

19.0%

いつ頃地下街への浸水が

予想されるか

130

38.3%

128

41.8%

雨水が流れ込む場所

183

54.0%

155

0.7%

通れない箇所について

183

54.0%

155

0.7%

どこから脱出すればよいか

266

78.5%

246

0.4%

鉄道などの運行状況

0

23.6%

74

24.2%

その他

0.3%

0.3%

わからない・

いらない

0.6%

0

0.0%

 

また、「河川の出水や氾濫の可能性」については、平日は26.0%であるのに対し、休日は19.0%とやや低く、差異が認められた。これは、休日の方が福岡市外在住者の比率が高いことに起因していると推定される。

 

検証のために、居住地別の情報ニーズを比較すると、表3−23の通りとなった。

 

表3−23:居住地と情報ニーズの関係

回答

福岡市内在住

市外在住

実数

割合

実数

割合

外の

降雨状況

93

26.7%

86

0.5%

河川の出水氾濫可能性

97

26.7%

49

17.4%

地下街への浸水予想時刻

136

37.5%

122

43.3%

流入の激しい出入り口

190

52.3%

148

52.5%

雨水により通れない箇所

00

55.1%

138

48.9%

どこから脱出すればよいか

285

78.5%

227

0.5%

鉄道などの運行状況

77

21.2%

77

27.3%

その他

0.3%

0.4%

わからない

いらない

0.3%

0.4%

市内在住:N=363、福岡市外在住:N=282

 

河川の出水氾濫可能性については、福岡市内在住者が挙げた比率と、市外在住者が上げた比率に9%強の差が有る。(これは他の項目では見られない顕著な違いである。)

 

市内在住者は自宅目指して地上を歩いていこうとするため、付近河川の氾濫可能性に関心が高いと推定される。

 

もし、三笠川が氾濫中であるなど、避難者が洪水状態の地上を歩いて帰宅することが危険である場合は、地下街において付近の避難場所へ誘導するなどの配慮が必要となる。洪水が小規模であっても、濁った流れの中を突っ切ろうとすれば、側溝や小河川、マンホールへの転落など、人命に関わる危険が存在する。地下街から脱出したものの、自宅を目指す間に死傷する可能性も否めない。

 

よって、施設管理者は、利用者をただ地上に避難させるだけではなく、その後自宅に向かうべきであるのか、市外在住者同様、帰宅困難者として駅周辺の避難場所に向かうべきであるかを、あらかじめ放送等で知らせることにより、人的被害の発生を未然に防ぐ責務を負うといえる。そして、市町村はこうした地下街管理者の役割を十分に理解し、災害時には、的確な情報を迅速に管理者に伝達する必要がある。


3.4.調査結果2:

「浅草地下街」平日・休日比較

 

東京都台東区「浅草地下街」とは、松屋デパート地下街・営団浅草駅地下街・営団浅草駅〜都営浅草駅地下通路を指す。実際に災害が発生した「福岡駅周辺地下街」の回答と比較するために、従前大きな被害が発生していないものの、浸水危険度が高いと指摘されている浅草においても、平日・休日データを採取した。

 

平日データと休日データの採取日は以下の通りである。

平日:平成12年3月13日(月)

休日:平成12年3月12日(日)

福岡同様、両日ともに、午前11時〜午後6時の約7時間連続して面接調査を行った。

 

<フェイスシート>

まず、調査サンプルの特性を整理する。

サンプル数は、平日315サンプル、休日318サンプルである。男女比は、平日は男性48.3%、女性51.7%、休日は男性45.0%、女性55.0%であった。

 

次に調査対象者の年齢分布であるが、平日、休日ともに20代以下が30%前後とやや多めであるが、他の世代は平均して回答を収集することができた。

 

表3−24:(F2)年齢

回答

平日

割合

休日

割合

0代以下

95

0.2%

94

29.6%

0代

49

15.6%

0

18.9%

0代

49

15.6%

48

15.1%

0代

54

17.1%

68

21.4%

0歳以上

68

21.6%

48

15.1%

 

災害弱者を抱える世帯の割合も、平日13.0%、休日10.1%とあまり差がなかった。

 

<T:地下空間利用状況>

居住地域は、平日では23区内が54.3%と若干多かったのに対し、休日では23区外が52.5%であった。だが、これはあまり大きな差ではなく、平日・休日ともに23区内在住者・23区外在住者の比率は、ほぼ半々であったといえる。

 

利用頻度(問2)は、平日では週に4〜5回利用する常時利用者の割合が22.5%であるのに対し、休日では17.9%でやや少なめであるが、その他の部分ではあまり大きな差異は見られない。

 

表3−25:(問2)地下街利用頻度

回答

平日

割合

休日

割合

週に

4〜5回

71

22.5%

57

17.9%

週に数回

58

18.4%

43

13.5%

月に数回

65

0.6%

78

24.5%

年に数回

41

13.0%

56

17.6%

ほとんど利用しない

0

25.4%

84

26.4%

 

利用時間帯については、平日・休日ともに13:00〜18:00が5割強を占め、他の時間帯の分布もほぼ同様である。

 

表3−26:(SQ問2)利用時間帯

回答

平日

割合

休日

割合

9:00以前

22

7.0%

35

11.0%

9:00〜12:00

44

14.0%

55

17.3%

12:00〜13:00

51

16.2%

39

12.3%

13:00〜18:00

169

53.7%

159

0.0%

18:00以降

29

9.2%

0

9.4%

 

また、利用目的として挙げられたのは、平日は「地下鉄利用」「仕事・商用」「買物」の順、休日は「買物」「地下鉄利用」「旅行・観光」の順に多かった。平日はビジネス街として機能するのに対し、休日は雷門をはじめとする観光地であることが伺われる。

 

表3−27:(問3)利用目的

回答

平日

割合

休日

割合

買物

74

23.5%

96

0.2%

食事

31

9.8%

43

13.5%

地下鉄利用

05

33.3%

93

29.2%

仕事・商用等

89

28.3%

29

9.1%

通勤・通学

49

15.6%

0

12.6%

通路として

49

15.6%

53

16.7%

旅行・観光等

68

21.6%

84

26.4%

天候が悪いとき

0.3%

0.3%

その他

26

8.3%

15

4.7%

 

問4で『あなたは、ここの地下街の出入口の位置や通路について、どの程度ご存知でしょうか。』と質問したところ、「ほとんど知っている」「だいたい知っている」の合計は、平日51.1%、休日46.0%で、やや平日利用者の方が地理精通度が高かった。

 

表3−28:(問4)入り口の場所や通路の把握

回答

平日

割合

休日

割合

ほとんど知っている

56

17.8%

52

16.4%

だいたい知っている

05

33.3%

94

29.6%

一部しか

知らない

01

32.1%

98

0.8%

全く知らない

53

16.8%

74

23.3%

 

 

 

 

<U:地下街水害不安度>

では、地震・火災・ガス爆発・水害のうち地下街で発生しそうな災害を、全て挙げて頂いた結果を以下に示す。(問5)

 

表3−29:(問5)地下街で発生しそうな災害

回答

平日

割合

休日

割合

地震

183

58.1%

190

59.7%

火災

172

54.6%

135

42.5%

ガス爆発

78

24.8%

71

22.3%

水害

86

27.3%

85

26.7%

 

主に地震が6割近くの人に挙げられ、次いで火災が平日54.6%、休日42.5%によって挙げられている。浅草では水害を回答した人は、平日・休日ともに全体の3割以下にとどまった。この結果は、ガス爆発よりは多くあげられているものの、明らかに地下空間における水害に対する意識が低いことを示している。

 

さらに、付問5において『水害が発生しそうだと思う理由』を調査したが、平日・休日ともに「荒川が近くにあるから」が最も多く、次いで「地下での水害を知っているので」が回答された。約10%程度の差であるが、平日利用者の方が荒川の存在を多く挙げ、休日利用者の方が地下での水害事例を多く挙げた。

これは、商用利用などで付近の地理に詳しい人が多い平日と、観光や買物を目的とする来訪者が多い休日との差であると考えられる。

 


表3−30:(SQ5)災害が発生しそうだと思う理由

回答

平日

割合

休日

割合

過去に

水害を経験しているので

3.5%

3.5%

地下での

水害を知っているので

23

26.7%

0

35.3%

荒川が近くに
あるから

49

57.0%

0

47.1%

なんとなく

0

11.6%

15

17.6%

その他

13

15.1%

7.1%

 

次いで問6では、地下街利用時に@地震、A火災、Bガス爆発、C水害が発生したと仮定し、どの程度不安に思うかを質問した。

 

結果は下表の通りであり、平日・休日間での差はみられなかった。むしろ、災害種別ごとの不安度に差があり、「非常に不安」という回答は、ガス爆発65%前後、火災60%弱、地震60%弱であったのに対し、水害は50%以下にとどまった。「あまり不安を感じない」「全く不安を感じない」という回答の合計が、20%を上回っているのも水害だけである。

 

表3−31:(問6)災害発生時の不安の大きさ

@地震

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

167

53.0%

189

59.4%

不安

94

29.8%

95

29.9%

あまり

不安を感じない

51

16.2%

29

9.1%

全く

不安を感じない

1.0%

1.6%

 

 

A火災

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

170

54.0%

190

59.7%

不安

09

34.6%

96

0.2%

あまり

不安を感じない

34

0.8%

0

9.4%

全く

不安を感じない

0.6%

0.6%

 

Bガス

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

05

65.1%

06

64.8%

不安

69

21.9%

75

23.6%

あまり

不安を感じない

37

11.7%

31

9.7%

全く

不安を感じない

1.3%

1.9%

 

C水害

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

142

45.1%

153

48.1%

不安

92

29.2%

96

0.2%

あまり

不安を感じない

76

24.1%

58

18.2%

全く

不安を感じない

1.6%

11

3.5%

 

こうした水害に対する危機感の欠如は、問7・問8の回答にも表れている。

 

まず問7で『荒川の堤防が壊れる可能性』が「あまりない」「全くない」という回答が、平日は65.4%、休日は58.1%と6割前後にも上った。

問8では、『荒川の水が溢れて地下街が水に浸かる可能性』が「あまりない」「全くない」という回答が、平日52.6%、休日50.9%と過半数を占めた。

表3−32:(問7)大雨で荒川の堤防が壊れる可能性

回答

平日

割合

休日

割合

非常に高い

13

4.1%

31

9.7%

高い

96

0.5%

02

32.1%

あまりない

178

56.5%

162

0.9%

全くない

28

8.9%

23

7.2%

 

表3−33:(問8)荒川の水が溢れて地下街が水につかる可能性

回答

平日

割合

休日

割合

非常に高い

28

8.9%

33

0.4%

高い

121

38.4%

123

38.7%

あまりない

146

46.3%

139

43.7%

全くない

0

6.3%

23

7.2%

 

以上の結果から、浅草地下街利用者の過半数が、荒川の治水対策に強い信頼を抱いており、地下街の浸水災害について、現実的な認識を持っていないことが判明した。

 

この災害発生可能性に対する認識と地下街地理精通度(問2)との関係を検討した。だが、地理に精通した人も、不案内な人も、洪水可能性・浸水可能性については「あまりない」が最も多く、次に「高い」がくるという同様の反応で、福岡に見られたような差異は認められなかった。

 

問9〜問11では災害時の対応行動の実際を探るために、『地下街にいる時に、雨水が、自分のくるぶしくらいまでたまった』『水がたまってきて、エレベーターやエスカレーターが利用できなくなった』という具体的な災害シナリオを前提として質問を行った。

 

問9では、浸水がくるぶし位までたまった時の不安度を測定したが、「非常に不安」「不安」という回答の合計が、平日82.2%、休日82.1%と大半を占めた。水害に対する意識が低いのにも関わらず、浸水のように具体的に目に見える脅威が迫った場合には、福岡同様、大部分の人が不安を感じるといえる。

 

表3−34:(問9)地下街で雨水がくるぶし位までたまった時の不安度

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

116

36.8%

146

45.9%

不安

143

45.4%

115

36.2%

あまり

不安を感じない

51

16.2%

0

15.7%

全く

不安を感じない

1.6%

2.2%

 

続く問10では、浸水がくるぶしくらいまでたまった場合、どんな対応行動を採るかを質問したところ、平日70.8%、休日67.9%が「近い出口から地上に出る」と回答しており、何はさておき地下空間から脱出したいという意識が働くことが推定される。一方、「管内放送や関係者の指示に従う」と回答した人は、平日26.7%、休日29.9%であり、やや休日の方が施設管理者の指示に従う層が多いといえる。

 

表3−35:(問10)その際の対応行動

回答

平日

割合

休日

割合

館内放送や関係者の指示に従う

84

26.7%

95

29.9%

近い出口から地上に出る

223

0.8%

216

67.9%

そのまま地下を歩き続ける

1.6%

1.6%

その他

1.0%

0.6%

 

 

問11で、『水がエレベーターやエスカレーターが利用できなくなったらどのくらい不安を感じるか』を質問したところ、「非常に不安」という回答が、平日38.7%、休日45.6%であり、問9の『くるぶしくらいまで』の浸水と同程度の反応であった。「非常に不安」「不安」を合計した場合も、平日は71.1%、休日は76.4%とあまり大きな差は認められなかった。

 

表3−36:(問11)水がたまってエレベーターなどが利用できない時の不安度

回答

平日

割合

休日

割合

非常に不安

122

38.7%

145

45.6%

不安

02

32.4%

98

0.8%

あまり不安を感じない

73

23.2%

64

0.1%

全く不安を感じない

18

5.7%

11

3.5%

 

次に、災害弱者の有無とエレベーター・エスカレーター休止時不安度との関係を下表に示す。

 

表3−37:災害弱者の有無とエレベーター等休止時不安度の関係

回答

災害弱者有り

災害弱者無し

非常に不安を感じる

38

(52.8%)

229

(40.8%)

不安を

感じる

22

(30.6%)

178

(31.7%)

あまり不安を

感じない

(12.5%)

128

(22.8%)

全く不安を

感じない

(4.2%)

26

(4.6%)

災害弱者有り:N=72、災害弱者無し:N=561

 

明らかに家族に「災害弱者有り」の人の方が、不安を感じる度合いが高い。

これは問9の『雨水が自分のくるぶし位まで』という仮定で聞いた際の不安度とは異なっている。

 

表3−38:災害弱者の有無と雨水がくるぶしまでたまった場合の不安度の関係

回答

災害弱者有り

災害弱者無し

非常に不安を感じる

0

(41.7%)

232

(41.4%)

不安を

感じる

31

(43.1%)

227

(40.5%)

あまり不安を

感じない

0

(13.9%)

91

(16.2%)

全く不安を

感じない

(1.4%)

11

(2.0%)

災害弱者有り:N=39、災害弱者無し:N=60

 

この場合、災害弱者の有無に関わらず、不安度の分布はほぼ一定である。

 

つまり、問11の『水でエレベーターやエスカレーターが利用できなくなったら』という仮定は、福岡同様、自力での移動が難しい災害弱者を抱えている人にとって強い不安を喚起するものであるといえる。

 


<V:避難時の情報ニーズ>

問12〜問15では、施設管理者の行う情報提供や避難誘導に対するニーズを把握した。

 

まず問12では地下街で避難を呼びかける放送が流れた場合の対応行動を調査したが、「避難する」が平日76.8%、休日73.9%と最も多かった。次に「様子を見る」が20%弱、「まわりの人と同じ行動をとる」という回答は少数にとどまった。

 

表3−39:(問12)地下街で避難勧告放送が流れたときの行動

回答

平日

割合

休日

割合

避難する

242

76.8%

235

73.9%

様子を見る

53

16.8%

0

18.9%

まわりの人と同じ行動をとる

19

6.0%

23

7.2%

突然の発生はあり得ない

0.3%

0

0.0%

 

問13では避難を呼びかける放送が、自らの避難行動に対してどの程度重要であるかを質問したが、平日・休日ともに75%強が「とても重要」と回答しており、利用者の避難意思決定が施設管理者の呼びかけに依存している状況が明確になった。反対に「あまり重要でない」「重要でない」と回答した人は、平日2.5%、休日1.6%に過ぎなかった。

 

表3−40:(問13)水害の発生時に避難する上での避難勧告放送の重要度

回答

平日

割合

休日

割合

とても重要

238

75.6%

240

75.5%

重要

69

21.9%

73

23.0%

あまり

重要でない

2.5%

1.6%

重要でない

0

0.0%

0

0.0%

問14では、避難誘導の重要度を質問したが、平日72.1%、休日73.0%が「とても重要」と回答しており、「あまり重要でない」「重要でない」という回答は少数であった。

 

表3−41:(問14)水害の発生時に避難する上での避難誘導の重要度

回答

平日

割合

休日

割合

とても重要

227

72.1%

232

73.0%

重要

72

22.9%

79

24.8%

あまり

重要でない

15

4.8%

1.9%

重要でない

0.3%

0.3%

 

問15では、地下街から避難する際の情報ニーズを複数回答で収集した。「どこから脱出すればよいか」が平日81.0%、休日75.2%の人に選ばれ、最多であった。次いで「雨水が流れ込むところ」が平日41.0%、休日46.5%、「通れない箇所」が平日37.5%、休日43.1%、「いつ頃地下街への浸水が予想されるか」が平日35.9%、休日38.7%によって挙げられた。

 


表3−42:(問15)地下街から避難する際に必要と思う情報

回答

平日

割合

休日

割合

外でどのくらい雨が降っているか

96

0.5%

91

28.6%

河川の出水や氾濫の可能性

94

29.8%

97

0.5%

いつ頃地下街への浸水が

予想されるか

113

35.9%

123

38.7%

雨水が流れ込む場所

129

41.0%

148

46.5%

通れない箇所について

118

37.5%

137

43.1%

どこから脱出すればよいか

255

81.0%

239

75.2%

鉄道などの運行状況

03

32.7%

98

0.8%

その他

14

4.4%

0.6%

わからない

0.6%

0

0.0%

 

なお、情報ニーズについて平日と休日の回答分布に大きな差は見られなかった。また、23区内住民と23区外住民とでもニーズに顕著な違いは見られなかった。

 

 


3.5.調査結果3:

「福岡駅周辺地下街」「浅草地下街」比較

 

最後に、博多駅周辺地下街(以下、博多と略する)と浅草地下街(以下、浅草)の回答の比較を行う。

 

<フェイスシート>

まず、調査サンプルの特性を整理する。

 

サンプル数は、博多645サンプル、浅草633サンプルである。男女比は若干異なり、博多は男性36.9%、女性63.1%、浅草は男性46.6%、女性53.4%であった。(やや博多の方が女性の比率が高い。)

 

次に調査対象者の年齢分布であるが、博多は20代以下が44.7%と大半を占めるのに対し、浅草は30%程度であり、他の世代のサンプルも平均的に収集することができた。これは両地下街の性格の相違によるものである。

 

表3−43:(F2)年齢

回答

博多

割合

浅草

割合

0代以下

288

44.7%

189

29.9%

0代

95

14.7%

09

17.2%

0代

0

14.0%

97

15.3%

0代

02

15.8%

122

19.3%

0歳以上

0

0.9%

116

18.3%

 

災害弱者を抱える世帯の割合は、博多が6.0%とやや低く、浅草は11.5%であった。

 

 

 

 

 

 

<T:地下空間利用状況>

居住地域は、博多の「福岡市内」と浅草の「23区内」、「福岡市外」と「23区外」は、ほぼ半々であり、あまり大きな差はなかった。

 

利用頻度(問2)は、博多・浅草ともに分布に差が見られなかった。

 

利用時間帯については、両地域ともに13:00〜18:00が5割強を占め、やや早朝利用が多い浅草と、昼時の利用が多い博多という特徴が出た。

 

表3−44:(SQ問2)利用時間帯

回答

博多

割合

浅草

割合

9:00以前

15

2.3%

57

9.0%

9:00〜12:00

0

0.9%

99

15.6%

12:00〜13:00

121

18.8%

0

14.2%

13:00〜18:00

370

57.4%

328

51.8%

18:00以降

69

0.7%

59

9.3%

 

利用目的には、両地下街の特徴が顕著に表れた。

福岡では買物(64.2%)と食事(40.9%)が圧倒的に多いのに対し、浅草は地下鉄利用(31.3%)と買物(26.9%)旅行・観光等(24.0%)が挙げられた。

 

付近の会社員や住民が生活用品を買ったり、外食を楽しんだりする場である福岡駅周辺地下街(デイトス)と、地下鉄や観光地に向かうための通路である浅草地下街の相違が出ているといえる。この利用目的の差は、利用年齢層が前者では比較的若く、後者は50代・60歳以上も満遍なく含んでいるところにも反映されている。


表3−45:(問3)利用目的

回答

博多

割合

浅草

割合

買物

414

64.2%

170

26.9%

食事

264

0.9%

74

11.7%

地下鉄利用

115

17.8%

198

31.3%

仕事・商用等

68

0.5%

118

18.6%

通勤・通学

43

6.7%

89

14.1%

通路として

98

15.2%

02

16.1%

旅行・観光等

38

5.9%

152

24.0%

天候が悪いとき

12

1.9%

0.3%

その他

36

5.6%

41

6.5%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3−4:博多・浅草両地下街の利用目的

 

問4の『あなたは、ここの地下街の出入口の位置や通路について、どの程度ご存知でしょうか。』に対し、「ほとんど知っている」「だいたい知っている」という回答の合計は、福岡55.8%、浅草48.5%で、やや福岡の方が地理精通度が高かった。これも地元住民や周辺への勤め人が利用する福岡駅周辺地下街と、観光客や通行人が多い浅草地下街との差が表れているといえる。

 

 

 

表3−46:(問4)入り口の場所や通路の把握

回答

博多

割合

浅草

割合

ほとんど知っている

89

13.8%

08

17.1%

だいたい知っている

271

42.0%

199

31.4%

一部しか

知らない

02

31.3%

199

31.4%

全く知らない

83

12.9%

127

0.1%

 

 

 

<U:地下街水害不安度>

では、地震・火災・ガス爆発・水害のうち地下街で発生しそうな災害を、全て挙げて頂いた結果を以下に示す。(問5)

 

表3−47:(問5)地下街で発生しそうな災害

回答

博多

割合

浅草

割合

地震

189

29.3%

373

58.9%

火災

357

55.3%

07

48.5%

ガス爆発

164

25.4%

149

23.5%

水害

393

0.9%

171

27.0%

 

博多では「水害」が60.9%の人に挙げられているのに対し、浅草ではたった27%であった。逆に浅草で6割近くの人が挙げた「地震」は、博多では3割を切っている。これは福岡水害の経験がもたらした意識の差であると推定される。浅草は、利用者の水害に対する防災意識が風化しており、同地下街の浸水危険度を鑑みるに、かなり無防備な状況にある。なお、火災やガス爆発については両地域とも同程度の回答であった。

 

さらに、付問5において『水害が発生しそうだと思う理由』を調査したところ、博多では「地下での水害を知っているので」という回答が36.1%にも上ったが、浅草ではどの理由も余り大きい比率をもって上げられていない。福岡水害の経験が博多地下街利用者の防災意識を高めていることが確認できた。

 

表3−48:(SQ5)災害が発生しそうだと思う理由

回答

博多

割合

浅草

割合

過去に

水害を経験しているので

86

13.3%

0.9%

地下での

水害を知っているので

233

36.1%

53

8.4%

三笠川・荒川が近くにあるから

87

13.5%

89

14.1%

なんとなく

79

12.2%

25

3.9%

その他

0.6%

19

3.0%

 

次いで問6では、地下街利用時に@地震、A火災、Bガス爆発、C水害が発生したと仮定し、どの程度不安に思うかを質問した。結果は下表の通りであり、@〜Bの災害では福岡・浅草間での意識差はみられなかった。だが、水害についてだけは、「非常に不安」が福岡で58.4%、浅草で46.6%であり、「あまり不安を感じない」が福岡で11.6%、浅草で21.2%という結果であった。

 

表3−49:(問6)C水害

回答

博多

割合

浅草

割合

非常に不安

377

58.4%

295

46.6%

不安

180

27.9%

188

29.7%

あまり不安を感じない

75

11.6%

134

21.2%

全く不安を感じない

13

2.0%

16

2.5%

 

こうした水害に対する危機感の相違は、問7・問8の回答にも表れている。

 

問7で『三笠川・荒川の堤防が壊れる可能性』が「あまりない」「全くない」という回答が、福岡では38.2%だったのに対し、浅草では61.8%にも上った。

 

同様に、問8では、『三笠川・荒川の水が溢れて地下街が水に浸かる可能性』が「あまりない」「全くない」という回答が、福岡31.3%、浅草51.8%であった。

 

表3−50:(問7)大雨で三笠川・荒川の堤防が壊れる可能性

回答

博多

割合

浅草

割合

非常に高い

118

18.3%

44

7.0%

高い

281

43.6%

198

31.3%

あまりない

225

34.9%

340

53.7%

全くない

21

3.3%

51

8.1%

 

表3−51:(問8)三笠川・荒川の水が溢れて地下街が水に浸かる可能性

回答

博多

割合

浅草

割合

非常に高い

177

27.4%

61

9.6%

高い

265

41.1%

244

38.5%

あまりない

188

29.1%

285

45.0%

全くない

14

2.2%

43

6.8%

わからない

0.2%

0

0.0%

 

以上の結果から、災害経験のある福岡駅周辺地下街利用者は6〜7割が浸水の可能性を認識しているのに対し、浅草地下街利用者は楽観的であり、地下空間における水害の危険性を自分の身に起こりうることとしてイメージできていないことが判明した。


問9〜問11では災害時の対応行動の実際を探るために、『地下街にいる時に、雨水が、自分のくるぶしくらいまでたまった』『水がたまってきて、エレベーターやエスカレーターが利用できなくなった』を前提として質問を行った。

 

問9では、浸水がくるぶし位までたまった時の不安度を測定したが、「非常に不安」「不安」という回答の合計は、福岡・浅草ともに、82.2%と同率であった。浅草地下街利用者は、浸水位が具体的に示された所で、初めて危険をリアルに認識し、福岡と同程度の不安を回答したといえる。

 

表3−52:(問9)地下街で雨水がくるぶし位までたまった時の不安度

回答

博多

割合

浅草

割合

非常に不安

267

41.4%

262

41.4%

不安

263

0.8%

258

0.8%

あまり不安を感じない

01

15.7%

01

16.0%

全く不安を感じない

14

2.2%

12

1.9%

 

続く問10では、浸水がくるぶしくらいまでたまった場合、どんな対応行動を採るかを質問したところ、「近い出口から地上に出る」という回答が福岡78.0%、浅草69.4%と、やや前者の方が多かった。逆に、「管内放送や関係者の指示に従う」と回答した人は、福岡18.6%、浅草28.3%であり、観光客や高齢者の多い浅草地下街の方が、施設管理者への依存度が高いことが判明した。

 

 

 

 

 

表3−53:(問10)その際の対応行動

回答

博多

割合

浅草

割合

館内放送や関係者の指示に従う

120

18.6%

179

28.3%

近い出口から地上に出る

03

78.0%

439

69.4%

そのまま地下を歩き続ける

17

2.6%

0

1.6%

その他

0.6%

0.8%

わからない

0.2%

 

問11で、『水がエレベーターやエスカレーターが利用できなくなったらどのくらい不安を感じるか』を質問したところ、「非常に不安」「不安」という回答の合計が、福岡79.4%、浅草73.8%であり、両地域の回答に大きな差異は見られなかった。

 

表3−54:(問11)水がたまってエレベーターなどが利用できない時の不安度

回答

博多

割合

浅草

割合

非常に不安

318

49.3%

267

42.2%

不安

194

0.1%

00

31.6%

あまり不安を感じない

116

18.0%

137

21.6%

全く不安を感じない

17

2.6%

29

4.6%

 

 


<V:避難時の情報ニーズ>

問12〜問15では、施設管理者の行う情報提供や避難誘導に対するニーズを把握した。

 

まず問12では地下街で避難を呼びかける放送が流れた場合の対応行動を調査したが、「避難する」が福岡78.0%、浅草75.4%と最も多かった。次に「様子を見る」が18%弱、「まわりの人と同じ行動をとる」という回答は少数にとどまり、両地域とも似通った回答分布であった。

 

表3−55:(問12)地下街で避難勧告放送が流れたときの行動

回答

博多

割合

浅草

割合

避難する

477

74.0%

477

75.4%

様子を見る

113

17.5%

113

17.9%

まわりの人と同じ行動をとる

55

8.5%

42

6.6%

突然の発生はありえない

0.0%

0.2%

 

問13では避難を呼びかける放送が、自らの避難行動に対してどの程度重要であるかを質問したが、「とても重要」と回答した人の比率は博多81.9%、浅草75.5%とやや前者の方が多くなっていた。

これも福岡水害の映像やニュースに触れた回数の多い利用者が、地下街からの地上避難をより現実的に想定して回答することができた事を示す相違である。ただ、その分「重要である」と回答した率は浅草の方が多くなっており、両地域とも「あまり重要でない」「重要でない」という回答は3%にも満たなかった。

 

 

 

 

表3−56:(問13)水害の発生時に避難する上での避難勧告放送の重要度

回答

博多

割合

浅草

割合

とても重要

528

81.9%

478

75.5%

重要

02

15.8%

142

22.4%

あまり

重要でない

12

1.9%

13

2.1%

重要でない

0.5%

0

0.0%

 

問14では、避難誘導の重要度を質問したが、博多78.0%、浅草72.5%が「とても重要」と回答しており、「あまり重要でない」「重要でない」という回答は少数であった。

 

表3−57:(問14)水害の発生時に避難する上での避難誘導の重要度

回答

博多

割合

浅草

割合

とても重要

03

78.0%

459

72.5%

重要

118

18.3%

151

23.9%

あまり

重要でない

0

3.1%

21

3.3%

重要でない

0.6%

0.3%

 


問15では、地下街から避難する際の情報ニーズを複数回答で収集した。

 

表3−58:(問15)地下街から避難する際に必要と思う情報

回答

博多

割合

浅草

割合

外でどのくらい雨が降っているか

179

27.8%

187

29.5%

河川の出水や氾濫の可能性

146

22.6%

191

0.2%

いつ頃地下街への浸水が予想されるか

258

0.0%

236

37.3%

雨水が流れ込む場所

338

52.4%

277

43.8%

通れない箇所について

338

52.4%

255

0.3%

どこから脱出すればよいか

512

79.4%

494

78.0%

鉄道などの運行状況

154

23.9%

01

31.8%

その他

0.3%

16

2.5%

わからない・いらない

0.3%

3−5:博多・浅草地下街利用者の情報ニーズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこから脱出すればよいか」が博多79.4%、浅草78.0%の人に選ばれ、最多であった。情報ニーズのうち、博多の方が高かったものは「雨水が流れ込むところ」「通れない箇所」であり、両項目とも過半数の利用者が挙げた。一方、浅草は情報ニーズそのものが博多に比して低めであるが、「河川の出水や氾濫の可能性」「鉄道などの運行状況」は博多よりも8%程度回答率が高かった。

 

この相違は、博多の利用者は実際に浸水が起きて地上への脱出経路を想定して回答しているのに対し、浅草の利用者は駅付近で商業活動や観光をしたり、地下鉄を利用したりする、平常時イメージの延長上で回答しているためであると推定される。

 


3.6.総括

3.3〜3.5の調査結果で判明したことを、以下に総括する。

 

(1)博多駅周辺地下街

利用者の特徴としては、20代以下の若い世代が多く、利用目的は買物や食事である。地下街の出入り口や通路などの地理精通度は、若干平日利用者の方が高い。

 

地下街における水害不安度は高く、福岡水害の経験が防災意識を啓発している。平日と休日の比較では、平日利用者の方がより水害に対する危機感が高い。

 

しかし、実際に地震・火災・ガス爆発・水害が発生した場合の不安度を調査したところ、全ての災害について、約6割が非常に不安を感じると回答しており、避難誘導を行う側はこの事実に留意すべきである。

 

三笠川の氾濫可能性と地下街浸水可能性については、回答者の6〜7割が高いと考えていた。本論では、地下街地理精通度とこの水害危険認識との関係を分析した。結果、地下街の出入り口討に精通している利用者は、どちらの可能性も高く見積もっていることが判明した。彼らは、福岡市内在住率・地下街利用頻度が高いという、デモグラフィックな特徴をもっている。よって本件は、博多駅周辺地下街を日常的に利用している層に対し、福岡水害の経験が防災意識高揚に寄与している事例であると推定される。

 

浸水時の災害対応行動は、大半の人が即座に地下空間から脱出しようとすることが分かった。また、休日利用者は平日利用者より、エレベーター・エスカレーター休止時の不安度が高かった。その理由としては、災害弱者の存在・利用時の人数の相違が挙げられる。平日利用者は、単身利用が多く、若い世代であるため浸水時に身軽に地上へ脱出できると考えるのに対し、休日利用者は同行者(幼児・高齢者を含む)の安全を確保し、はぐれないよう配慮しながら移動しなければならない。よって、本アンケートでは質問しなかったが、浸水時の停電・混雑・情報混乱に対する不安度も高いと、類推される。施設管理者はこのような実情を踏まえた上で、的確な避難誘導を行うべきであると考える。

 

避難時には、大半の人が施設管理者の避難勧告に従い、放送や誘導を重要視していることが分かった。地下街は外部の状況がわかりにくく、利用者自身の知覚で危険度を認識しにくいためであると推定される。

 

情報ニーズとしては、まず、どこから地上に脱出すればよいのか、そしてルート選択に有効な浸水口・通行不能箇所が挙げられた。

「河川の出水や氾濫の可能性」については、平日利用者の方が多く挙げており、これは福岡市内在住率が高いことに起因している。市内在住者は地上脱出後、自宅目指して地上を歩いていこうとするため、帰路における被災確率はかなり高い。もし三笠川の氾濫等の危険に、相当な蓋然性がある場合は、あらかじめ施設管理者からの情報提供が必要となる。地方自治体も、施設管理者に対し、「当該施設内残留者は帰宅困難者扱いで、付近の避難所へ避難させる」旨を迅速に伝達する等の処置が必要とされる。

 

 


(2)浅草地下街

利用者の特徴としては、20代以下が若干多いものの、博多に比べてあらゆる世代が分布していた。浅草は平日はビジネス街、休日は観光地となるため、地下街はそこへ向かう通路の役割を果たしている。

 

地下街における水害危険性への認識は低く、地震や火災の方が危険視されている。水害が発生した場合の不安度も、他の災害に比べて水害だけが低かった。

 

荒川の氾濫可能性と地下街浸水可能性については、回答者の過半数があまりない、全くないと回答した。浅草地下街利用者は、水害に対する防災意識が低く、実際の浸水可能性を鑑みるにかなり無防備な状況にあるといえる。一刻も早く防災意識の啓発が測られるべきである。

 

浸水時の不安度、災害対応行動は、博多とほぼ同様であった。避難時には、大半の人が施設管理者の避難勧告に従い、放送や誘導に依存していた。

 

(3)博多・浅草地下街の比較

両地下街利用者の水害危険性への認識は大きく異なり、被災経験によりリアルに浸水の危険性を認識している福岡と、水害に対する防災意識が風化してしまっている浅草という特徴が明らかになった。

 

三笠川・荒川の氾濫可能性と地下街浸水可能性の回答にはその傾向が最も顕著に表れ、6〜7割が危険視している博多と、過半数があまりない・まったくないと回答し、地下空間における水害を自分の身に起こりうることとしてイメージできていない浅草との差が現れた。ただし、浸水位を具体的に示すと、両地域とも同様の不安度を回答している。よって、浅草地下街において浸水可能性を、利用者の身に実際に起こりうることとしてイメージしやすい形で情報提供することの防災効果は高いと推定される。

 

浸水時の不安度、災害対応行動には両地域間に大きな差異はなかった。だが、避難時の情報ニーズで、博多の利用者が実際に浸水が起きた場合の自分の行動を前提に回答しているのに対し、浅草では平常時のイメージの延長線上で回答している傾向が見られた。

 

 

災害経験のない地下街において、防災意識を高揚することは困難である。だが、本調査の結果、発災時に自分はどのような状況におかれるのかを知らせ、リアルに危険性を認識させようとすることが、利用者の関心向上の糸口になることが分かった。だたし、こうした試みも単発では、利用者の平常化傾向に凌駕され、防災意識は風化の一途をたどることになる。これは、福岡水害の経験によって一時的に防災意識が高められている博多駅周辺地下街利用者についても同様である。地下街利用者の防災意識を常に高い水準に保っていくために、施設管理者や管轄市町村は、平素より当該地下施設の被災可能性について情報提供を継続して行い、発災に備えるべきである。