はじめに

 

 

 

わが国は、他の先進国に比べて、洪水等災害に対し極めて脆弱な国土条件である。それは、多雨・急峻な地形といった条件が大きな要因であることはいうまでもない。そのため、わが国では従来から、治水安全度の向上に向けて、重点的に治水施設の整備を行ってきた。

しかし、最近でもなお都市水害に対する話題には事欠くことなく、昨年も6月の梅雨前線の影響による広島の土砂災害、福岡のJR博多駅周辺の冠水、7月の東京都における被害など、現在でも水害の猛威にさらされている状況にある。特に、福岡や東京でビルの地下施設が浸水し、わが国でははじめて地下施設での死者が発生するなど、過去に例を見ない被害が発生した年でもあった。

これらの被害は、高度に都市化され一般には水害は生じないものと思われていた都市地域でも、水害による犠牲者が発生するという意味で、多くの人々の強い関心を集めた。

国の施策も、地下空間への浸水という新しい形態の被害の軽減に対応するため、1998年の『河川審議会総合政策委員会』の危機管理小委員会報告「水災害・土砂災害の危機管理の方向性」では、地下空間に対する洪水対策への対応の必要性が指摘されていたところであった。また同年11月には、4省庁合同で「地下空間洪水対策研究会」が設置され、地下空間の浸水対策の検討が進められてもいた。さらに、「利根川広域水防災検討委員会報告書」においても、今後の検討課題として地下鉄・地下街等の新たな危険への対応が指摘されていた。そのような中で、地下空間の浸水による死亡事故発生、という最悪の事態が先行してしまったのである。

今回の地下空間での浸水被害は、

1)       市機能そのものが脆弱であるという、いわゆるハード面での問題と、

2)       住民の都市水害に対する認識の薄さや地下空間の防災体制のあり方、

などといったソフト面での問題の、双方がクローズアップされた水害でもあった。今後とも、土地利用の高度化に伴う新たな形態の水害被害の軽減に向け、上記2項目に関する対応が早急に望まれるところである。

このような観点から、この報告では、まず、昨年6月に発生した福岡市JR博多駅周辺の水害についてその実態を報告し、次に、現在の地下空間における防災対策の状況について述べ、最後に、筆者らが東京都台東区の浅草地下街と福岡市のJR博多駅地下街において行った通行者調査の結果について報告していきたい。