5.2 急変する通信メディア

(1)急速な移動電話の発展
 近年、日本人の通信メディア利用は大きく変化しつつある。とりわけ、携帯電話やPHSといった移動電話の急激な普及には、目をみはるものがある。図5.2.1は携帯電話とPHSの加入者の変化を示しているが、93年度末に231万人だった携帯電話の加入者数は、94年度末には433万、95年度末には1024万、そして半年後の96年9月には1530万と、ここ数年、毎年2倍づつのペースで急増している。一方、95年7月にサービスを開始したPHSも95年度末に150万人、96年9月に395万人と、こちらも急速に加入者を伸ばしている。携帯電話、PHSあわせて2000万という数字は、日本の世帯数の2/3に相当する膨大な数である。一般の固定電話が日本の家庭に普及したのは、1960年代後半から70年代前半にかけてであるが、現在の移動電話の普及ぶりは、量およびスピードの両面において、それに匹敵するほどである。すなわち固定電話では、1965年に740万であった電話加入者数が、70年に1640万、75年に3170万に達しているのである。電話の家庭普及は、家庭にいながらいつでも簡単に連絡をとることを可能にした。これは、日本人と通信の関わりにおいて一つの大変革であった。そして現在、どこにいても連絡がとれる移動電話がそれに匹敵する規模とスピードで急成長している。こう考えると、現在電話の家庭普及につぐ30年ぶりの大変革がおきつつある、といえるかもしれない。
    図5.2.1 移動電話加入者数の変化
 急速な移動電話の発展にはいくつかの原因が考えられる。第一に、1988年に新電電会社が携帯電話の分野に参入しはじめたことがある。これで料金が若干下がり、販売活動も活発化し、加入者も徐々に増加しはじめた。第二に、94年春に端末売り切り制度が始まり、通信会社の販売手数料をあてにした端末の乱売合戦が始まったことが挙げられる。これにより携帯電話の端末価格が急速に低下した。そして第三に、95年のPHSのサービス開始は、携帯電話の料金をより低下させると同時に、移動電話に対する潜在需要を掘り起こした。これらの要因が積み重なって、95年以降の移動電話の爆発的な普及につながったと考えられる。
(2)移動電話の利用者属性
   では、こうした移動電話はどのような人に、どのように利用されているのだろうか。われわれの行った3つの調査を中心に、その利用者特性や利用様態について、携帯電話とPHSの比較を行おう。3つの調査とは、第一にNTTドコモ関西の兵庫県南部地域在住の携帯電話利用者を対象にした調査がある。調査は1995年5月に郵送法で行い、調査対象は加入名簿から無作為に抽出された1500人、有効回答数は683であった(以下「ドコモ調査」と略す)(1)。第二はアステル東京のPHS加入者を対象にした調査である。調査は1995年12月から96年1月に郵送法で行った。調査対象者は登録者名簿から無作為に抽出された2000名で、回収数は857であった(以下「アステル調査」と略す)(2)。そして第三の調査は1996年7月に松山市内の2つの大学の授業参加学生469人を対象に行った調査である(以下「学生調査」と略す)。ここではPHSの利用のしかたを中心に情報行動について調査したが、前記のアステル調査を補うために用いる。
 まず利用者の特性であるが、以上3調査は、ともに1事業者だけを対象にしているため、サンプルに偏りがある可能性がある。そこでここでは95年の情報行動センサスと、調査会社リックリサーチが95年に販売店を通じて行ったPHS利用者調査(3)の結果をあわせて検討する(表5.2.1)。それによると、利用者の性別は、携帯電話では6割から9割、そしてPHSでは7割から8割が男性とどちらも圧倒的に男性の利用が多くなっている。ただ、携帯電話とPHSのどちらが女性の比率が多いかは、携帯電話の2調査の結果の開きが大きいためによくわからない。年齢では、携帯電話の利用者は、40才代を中心として、50才代および30才代へと中年層に広がっている。一方PHSでは20歳代の若者が最も多く、ついで30歳代、40歳代と年齢が高くなるにつれて利用者が少なくなっている(表5.2.1)。この結果は、各メディアともに2つの調査の間でほぼ一致している。ここから、1995年の段階ではPHS利用者の方が携帯電話利用者より、ひとまわり年齢層が若いといえる。しかしPHSの利用者が若いといっても、10代の利用者はこの時点ではまだ少数派である。
表5.2.1 移動電話利用者の性別・年齢別構成比率
携帯電話       PHS
   ドコモ  センサス     アステル   リックリサーチ
男 91.0 58.1   74.3 81
  女 9.0 41.9  25.7 19
  10代 0.1 2.3  2.0 6
20代 10.9 18.6   35.5 32
30代 23.7 18.7   29.2 29
40代 33.0 37.2   22.2 19
50代 22.4 23.3   9.4 10
60− 9.9 -  1.8 5

 職業については各調査で職業分類が異なるので、表5.2.2では各調査の分類とともに利用者の職業別の比率を示した。それによると、携帯電話利用者は自営業主といった経営者や専門技術職に多いことがわかる。たとえばドコモ調査では、経営管理的職業が37.9%、専門技術職が22.3%と、これだけで全体の6割を占める。また同調査によると自営業主が55.5%をしめるのに対して、雇用者は40.5%、家族従業者が3.9%と、経営者が多くなっている。さらに同調査によると、業種では建設業が21.7%と最も多く、ついでサービス業(20.1%)、卸売り・小売り業(18.2%)、製造業(12.5%)、運輸業(9.7%)などとなっている。それに対してPHSでは一般事務が23.0%、会社団体の部課長が20.5%と雇用されたホワイトカラーの比率が高くなっており、逆に会社団体役員は4.8%にとどまっている。また専門技術職は21.1%と携帯電話と同様に高い比率である。全体的なイメージとしては、携帯電話利用者は建設業やサービス業の自営経営者、PHSは企業のサラリーマンが多い、といったところであろう。このように携帯電話とPHSでは利用者の職業が大きく異なっている。
 この理由は2つ考えられる。一つは携帯電話とPHSのメディア特性の違いだ。この時点ではPHSの使用可能範囲は都市の中心部に限られている。したがって都市の中心部にいることが多いホワイトカラーには利用可能性が多いが、現場を移動することが多いような自営経営者には敬遠されたのかもしれない。第二の理由はアステルの販売戦略にある。この当時アステル東京の販売の主力は、電力会社、商社、たばこ会社、出版会社などといった株主を中心とした職域販売という形態をとっていた。実際、勤め先を通じて安く手に入ったから使い始めた、とする人が全体の70.0%(アステル調査)に達している。これが利用者に企業のホワイトカラーが多い原因の一つになっている。
表5.2.2 移動電話利用者職業別比率 ドコモ調査・情報行動センサス・アステル調査
携帯電話(ドコモ) 携帯電話(センサス) PHS(アステル)
 経営・管理的職業 37.9 自営業主     26.5 個人経営の経営者 1.8
 販売従事者 9.5 会社団体役員   20.6 会社団体役員  4.8
 サービス 12.2 販売・サービス  11.8 会社団体部課長 20.5
職人技術作業者  8.0 技能労務     11.8 営業・販売 15.8
専門技術職    22.3 専門技術職  11.8 専門技術職   21.1
事務職      4.9 事務職     8.8 一般事務 23.0
生産工程労働    0.4 自由業   5.9 技能工生産工 2.0
農林漁業 0.4 農林漁業 2.9 自由業 0.2
主婦(パート) 0.9 販売店主 0.4
専業主婦 0.6 管理的公務員 0.1
学生 0.7 その他の職業 3.1
無職 1.0 主婦 2.1
生徒学生 4.4

(3)仕事の携帯、私用のPHS 
 携帯電話とPHSはその利用頻度においても大きく異なっている。ドコモ調査によると、携帯電話の利用頻度は、1日5回以上が35.3%で1日数回が41.9%と、こうしたハードユーザーが全体の8割を占めている。それに対してPHS(アステル調査)では、週数回程度が36.8%と最も多く、毎日利用する人は24.1%しかいなかった。学生は利用頻度がやや高くなるが、それでも毎日使う人は44.3%と携帯電話の約半数にとどまり、PHSの利用頻度は携帯電話に比べて大幅に少ないといえる。この数字は、われわれが別の機会に東京都民に対して行った調査(橋元ほか,1992)における、固定電話の利用頻度と比べても少なくなっている(表5.3.2)。たとえば毎日利用する人の割合でみると、携帯電話が81.2%、固定電話が53.0%、PHSが24.1%(アステル調査)および44.3%(学生調査)と、固定電話を中心として携帯電話は大変高く、PHSはやや低いという形になっている。
   表5.2.3 移動電話の利用頻度 (%))ドコモ調査・アステル調査・学生調査
1日5回− 1日数回 1日1回 週数回 週1回 月数回 月1回−
携帯電話 35.3 41.9 4.0 13.7 0.9 3.4 0.9
PHS(アステル) − − 24.1 36.8 10.3 14.7 6.3
PHS(学生) − − 44.3 41.0 3.3 4.9 6.5
固定電話* − − 53.0 26.8 5.9 9.8 2.9
          *固定電話の回数は東京都民対象の調査(橋元ほか,1992)による
   
 この原因は利用目的の違いにある。携帯電話利用者にその使用目的を聞いたところ、「仕事と私用の両方に使う」人が49.0%と最も多く、「ほとんど仕事のために使う」という人も39.6%いた。逆に「ほとんど私用のために使う」人は11.5%にとどまり、携帯電話はほとんどが仕事がらみで利用していることがわかる。一方PHSでは、「ほとんど私用のために使う」、とする人が63.3%、「仕事と私用の両方に使う」人が27.7%、「ほとんど仕事に使う」ということはわずか7.7%で、主に私用目的で使う人が圧倒的に多くなっている。3章で見たように、有職者の電話利用回数は大変多く、仕事のための電話利用は頻度が多い。しかも携帯電話をもつような人には、仕事の電話も、その必要度が高い人が多いと考えられる。従って、仕事目的の通話が主体の携帯電話は利用頻度が非常に高いのも当然のことである。その一方、私用目的が主体のPHSでは、仕事の通話が欠落しているので、仕事と私用の両方を含んでいる固定電話よりも、その利用頻度が少なくなってしまうのである。

      表5.2.4 移動電話の利用目的(%) ドコモ調査・アステル調査
     ほとんど仕事のため   仕事と私用両方  ほとんど私用のため
 携帯電話 39.6 49.0 11.5
 PHS(アステル)   7.7 27.7 63.3
   利用目的の違いは、通話相手の違いにも現れてくる。携帯電話利用者にどのような相手と通話することが多いかをたずねたところ、最も多くの人が挙げたのは、「仕事関係の人(自社の)」で63.1%、ついで「仕事関係の人(自社外の)」59.9%であり、やはり仕事の相手が圧倒的に多かった。一方PHS(アステル調査)では、1週間に1回以上かける相手をたずねたところ、仕事の相手は少なく(自社の相手が28.9%、自社外が16.7%)、家族をあげた人が65.7%と最も多かった。また学生調査では、PHSで話すことが多い相手として友人をあげた人が86.9%と最も多かった。いずれにしても、PHSではプライベートな相手に集中している。ちなみにNTT(1991)が首都圏の住宅用電話利用者に調査したところ、1週間の通話の発信相手で最も多かったのは友人・知人(42.0%)で、ついで実家・親戚(13.0%)、自宅(9.1%)、取引先(7.9%)、商店・病院・公共機関(6.5%)などとなっていた。このように固定電話では、友人・知人が通話相手として最も多いのが普通である。したがってアステル調査で家族が最も多いというのは、私的利用としても、通話相手が少し偏っている。これは、アステル調査の時点では、私的領域でもまだPHSが十分に使いこなされていなかったことのあらわれといえるだろう。
 
表5.2.5 移動電話の通話相手 ドコモ調査・アステル調査・学生調査
携帯電話* PHS(アステル)** PHS(学生)*
 家族 47.7 65.7 32.8
親戚 5.9 − −
 友人知人    43.5 35.5(同性) 31.2(異性) 86.9
彼氏・彼女 − − 27.9
仕事関係の人(自社の) 63.1 28.9 18.0(アルバイト)
 仕事関係の人(自社外の) 59.9 16.7 −
 119番110番 0.6 − −
 市役所等公共機関 3.2 − −
 その他   2.3 3.4 4.9
   *話すことが多い相手 **1週間に1回以上かける相手

(4)移動電話の利用と満足
 では、利用者は移動電話を具体的にどのように使い、どのような満足を得ているのであろうか。表5.2.6は、各項目について、どのくらいの人が「役立つ」としたか、という満足率を示している。具体的には、「大変役に立つ」と答えた人と「多少役に立つ」とした人を合計して、それが全体しめる割合を求めた。各項目は因子分析の結果を参考にしながら、こここではおおまかに3つの分野に分けて提示した。すなわち、仕事に関するもの、私生活に関するもの、そしていざというときにいつでも連絡がつく、というアクセシビリティーに関するものの3つである。ただ、調査によって因子分析の結果は異なるので、この分類はあくまでもおおまかなものである(4)。ここからわかるのは、第一に、携帯電話、PHSともにアクセシビリティーに関する満足が高いことが挙げられる。たとえばドコモ調査では、「病気や事故などいざというときに備えとして」(84.8%)、「電話がないところでの連絡に」(85.5%)、「移動しやすくなるために」(90.3%)、「他人がいつでも連絡がとれるため」(83.7%)など、満足率はいずれも80%を超えている。PHSでも、たとえば学生調査では「電話がないところでの連絡」(89.7%)など80%を超えるものがあるし、アステル調査でも「電話がないところでの連絡に」(64.4%)、「病気やいざというときの備えとして」(52.2%)などは他の項目が低い中で比較的満足率が高い項目である。これらの項目の多くは移動電話に特徴的なもので、そうした移動電話らしい役割についての満足が高くなっている。第二に、その一方で携帯電話とPHSの違いもみられる。すなわち、携帯電話では「仕事上の緊急連絡手段確保のため」(91.7%)、「仕事上の指示や問い合わせのため」(86.4%)といった仕事に関する満足が高いが、PHSでは、仕事に関する満足は低く、そのかわりに私生活に関する項目の満足率が高かった。たとえば学生調査では、仕事に関する項目はいずれも40%代なのに対し、「私的なことに関する指示や問い合わせ」(86.2%)、あるいは「私的なことに関するスケジュール調整」(86.2%)など、いずれも満足率は80%を越していた。アステル調査でも仕事に関する項目は20%から30%代と低いのに対して、私的生活に関する項目は50%から60%代と比較的高くな
     表5.2.6 移動電話利用による満足率(%) ドコモ調査・アステル調査・学生調査
   携帯電話 PHS(アステル) PHS(学生)
仕 1.仕事上の注文の受発注のため 63.8 − −
2.仕事上の指示や問い合わせのため 86.4 29.0 48.3
事 3.仕事のスケジュール調整のため 77.0 21.2 44.8
4.仕事上の緊急連絡手段確保のため 91.7 36.5 −
5.私的なことに関する指示や問い合わせのため 75.0 58.1 86.2
私 6.私的なことに関するスケジュール調整のため 66.6 53.1 86.2
   7.待ち合わせの連絡に   − 66.9 96.5
生 8.通常の電話のかわりとして 59.7 38.7 60.3
9.おしゃべりのために 10.9 29.2 55.2
活 10.プライバシーを守るため 28.9 28.0 35.1
  11.あいさつや近況報告のため 25.3  − −
12.一種のステータス・シンボルとして 17.9 − −
アビ 13.病気や事故などいざという時の備えとして 84.8 52.2 67.2
クリ 14.電話が無い所での連絡に        85.8 64.4 89.7
セテ 15.他人からの連絡をいつでも受けられるため* 83.7 35.0 84.5
シィ 16.移動しやすくなるために      90.3 − −
         *ただし、ドコモ調査では「他人がいつでも連絡がとれるため」
     (「大変役に立つ」と「多少役に立つ」の合計値)

っている。第三に、携帯電話も私的生活に関する満足は、全体として決して低くはないが、おしゃべりに対する評価はPHSと大きく異なっている。すなわちおしゃべりに役立つとする人は携帯電話では10.8%にしか満たないのに対し、アステル調査では29.2%、学生調査では55.2%とかなり高くなっている。こうした点に仕事中心の携帯電話と、私用中心のPHSという利用の差が顕著にあらわれている。第四に携帯電話調査や学生調査に比べて、アステル調査における満足率は全体的に低かった。これは第一に、すでに述べたアステル調査における利用頻度の低さと関係している。そして第二にPHSそのものに対する評価の低さとも連動している。すなわちアステル調査ではPHSに対する評価も「非常に不満である」が34.2%、「あまり満足していない」が40.7%と、大変低かったのである。これらの原因の一つに、特にサービス開始当初、使用可能エリアが極端に狭かったことがあげられる。96年1月のアステル調査では、96.8%の人が「利用できるエリアを広げてほしい」と不満を述べている。それに対して96年7月の学生調査では「受信エリアが狭い」という不満は72.1%とやや下がり、評価も「非常に満足している」が13.8%、「まあ満足している」が60.3%と、高くなってきた。ただ、PHSは依然として利用可能エリアの問題を抱えており、アクセスの確実性が求められる仕事にはやはり携帯電話が必要、ということになるだろう。
(5)移動電話と移動性
 移動電話はその名の通り、移動と深く関わっている。移動電話利用開始のきっかけをたずねると、携帯電話では77.5%の人が「移動が多く連絡が取りにくいので」としている。これは携帯電話の利用開始動機のなかでは最も多くの人が選択した項目であった。またPHSでも同様の項目をあげた人は、アステル調査で38.4%、学生調査で45.9%に達している。移動電話、特に携帯電話では、移動の多さが利用を始める動機となっている。その他の注目される動機としては、「ポケットベルで呼び出されることが多かったので」という人が移動電話共通してかなりいること、またPHSは値段の安さをあげる人が多いこと、などが挙げられる。とくにアステル調査では「会社を通じて安くて手に入れた」人が70.0%もいたこと、また学生調査では「景品などでたたでくれた」という人が26.2%いたことが目を引く。
    表5.2.7 移動電話利用開始のきっかけ ドコモ調査・アステル調査・学生調査
                 携帯電話 PHS(アステル) PHS(学生
移動が多く連絡が取りにくいので   77.5 38.4 45.9
公衆電話をよく使うので  14.6 54.8 8.2
仕事場に電話がないので 13.8 5.5 -
自分専用の電話が欲しかったので 13.2 48.7 34.4
ポケットベルで呼び出されることが多かったので 30.5 15.4 21.3
緊急時の連絡のため(安全のため) 6.0 52.5 29.5
値段が下がった(大変安く買えた)ので 15.4 - 16.4
勤め先を通じて安く手に入ったから - 70.0 -
携帯電話より安いので - 81.1 41.0
景品などで、ただでくれたので - - 26.2
広告をみてよいものだと思って - 40.9 4.9
流行だから - 23.2 6.6
会社に持たされたので   7.8 4.2 -
なんとなく 4.5 18.8 8.2

 利用場所も移動性をあらわしている。アステル調査によると、週に数回以上使用する場所として最も多くの人が挙げたのは、路上(46.0%)と駅の構内(43.4)であった。また学生調査では、どこで使うことが多いかをたずねたところ、学校(60.7%)が最も多く、次いで路上(57.4%)が多かった。また、本来は使うことができないとされる自動車の中でも、2割弱の人が使っていた。このようにPHSは外出時に使われることが多くなっている。しかしその一方で、34.4%(学生調査)とかなり多くの人が、自宅でもよく使っていた。もともとプライベートな通話は主に夜間に行われるものなので、PHSが夜間の在宅時に利用されるのも自然なことといえる。一方、携帯電話については、利用場所の網羅的データはないが、自動車での移動と深い関係にある。というのは利用習慣として携帯電話を「自動車の中で使うことが多い」と答えた人が全体の70.3%もいたからである。また利用者の76.3%が「仕事で車を使っている」人であり、「移動することが多い仕事をしている」とする人は78.3%に達している(数字はいずれもドコモ調査より)。同じ移動といってもPHSが路上、駅、学校といった徒歩移動時の利用が多いのに対して、携帯電話は自動車による移動時の利用を特徴としている。
        5.2.8 PHSの利用場所
  アステル調査*  学生調査**
自宅  6.2 34.4
   路上  46.0 57.4
学校 − 60.7
勤務先または学校 12.8 −
職場 − 18.0
駅の構内 43.4 −
   自動車(やバス)の中 14.7 19.7
  店内 − 6.6
飲食店  6.9 −
   訪問先の会社 6.6 −
   *週数回以上利用する場所  **使うことが多い場所

(6)移動電話の影響
 最後に移動電話利用による影響をみてみよう。携帯電話についてはデータがないが、PHSについては、所有するようになって変わったことを聞いている。その中で顕著なのは電話利用面の変化だ。中でも公衆電話利用回数が減少したという人は特に多く、学生調査で77.6%、アステル調査でも72.5%の人があげている。さらに学生調査では、40.4%が深夜でも気がねなく電話できるようになったとしている。また同調査では電話利用回数が増えたとする人も50%に達している。意識面の変化で目立つのは、学生調査で48.3%、アステル調査で10.2%があげている「行動がより自由になった」という意識だ。これは、PHSを利用することで、計画の変更や立案が自由にできるようになったためであろう。逆に拘束感を感じるようになった人は、学生調査で8.8%、アステル調査で2.7%と少なくなっている。その一方で、PHSを持つことで「親が安心するようになった」と答えた学生が42.1%もいた。もちろんこれは、親本人にたずねたわけではないので、学生の勝手な思いこみである可能性もある。しかし私が学生に話を聞いたところ、PHSを持つようになって親が安心して門限が延びた、と言う女子学生もいたから、そのような親は意外と多いのかもしれない。行動面の変化は、電話利用面や意識面の変化に比べると、若干少なくなっている。学生調査では「友達と遊ぶ機会が増えた」とする人は29.8%、「夜遅くまで外出するようになった」という人は17.5%だった。一方、アステル調査では「人と会う回数が増えた」人は3.3%、減ったという人は0.5%と、行動面の影響はほとんど出ていない。
表5.2.9 PHS利用で変わったこと(%) 学生調査
行動がより自由になった 48.3
孤立していないという安心感ができた 14.3
束縛感を感じるようになった 8.8
親が安心するようになった 42.1
友人同士のイベント情報がよく
  入るようになった           33.3
友達と遊ぶ機会が増えた 29.8
夜遅くまで外出するようになった 17.5
深夜でも気がねなく電話できるようになった 40.4
電話を利用する回数が増えた 50.0
公衆電話を使う回数が減った 77.6
(7)まとめ
 以上のように、一口に移動電話といっても、携帯電話とPHSでは、その利用実態はかなり異なることがわかった。利用者属性ではPHSの利用者は携帯電話利用者より一回り若く、PHSが雇用されているホワイトカラーが中心なのに対し、携帯電話は会社役員や自営主が多かった。利用頻度も携帯電話が大変高いのに対して、PHSは固定電話より少なかった。これらの差異の中心となる軸は利用目的の違いである。携帯電話が仕事目的を中心として私用にも使われるのに対して、PHSはあくまでも私用を中心とする。このことは利用から得られる満足にも強く影響していた。携帯電話とPHSの利用目的の差には3つの原因が考えられる。第一にハード面の差がある。携帯電話の方がサービスエリアが広く、またエリア内でも不感地帯が少ないので、こうした信頼性が仕事目的には必要だったのだろう。第二に価格の差がある。携帯の利用料金はPHSよりかなり割高であった。高い料金は業務用なら負担できるが、私用では難しい。第三に歴史の差がある。携帯電話の方が20年近く先行してサービスを開始したので、必要性の高い業務目的の利用を早い時点で吸収できたのである。しかし、これらの差はしだいに縮まる方向にある。したがって、今後、とくに、携帯電話で私的利用を中心とする人が増える、という形で携帯電話とPHSの違いが減少する可能性がある。
 差異のもう一つの軸に自動車での利用がある。携帯電話は自動車内で使われることが多く、PHSは路上や駅で使われていた。もちろんこれは、携帯電話しか高速移動中の利用ができない、というハード面の差異に基づいており、両者の使い分けがされているように見える。しかし実際は、二割弱(学生調査)の人がPHSを自動車内でよく利用しており、PHS利用者は車内での利用の欲求がないわけでも、また不可能なわけでもない。そしてその一方で、安全性の理由から、運転走行中の車内での携帯電話利用が制限されつつある。こうしたことから、将来、この軸での差異がしだいに減少していくことも考えられる。
差異の一方で、携帯電話とPHSには移動電話らしい共通性もあった。移動電話が、いざというときにもいつでも連絡が取れることを可能にし、そうした点についての満足が共通して高かったのである。
 利用実態におけるこれらの異同がどのように変化していくのか、そしてそれらは利用者にどのような影響をもたらすのか、今後さらに検討していく必要があるだろう。


(1)本調査はNTT移動通信網株式会社との共同調査として行われた。調査票と単純集計は中村(1996b)また結果については中村(1996a)を参照
(2)本調査は情報行動センサス研究会の石井健一、川上善郎、中村功、是永論、辻大介によって行われた。詳しくは石井健一他(1996)を参照
(3)本調査では首都圏と関西圏の販売業者が95年7月から11月までに販売した各社のPHS利用者1084人に郵送でアンケート調査を実施した、とある。有効回答数は438。ただし、サンプリングの仕方は不明。『テレコミュニケーション』1996.3.p158
(4)おおまかに3つに分類したのは、因子分析をしたところ、因子構造や因子を構成する項目が調査によって異なるからである。すなわちドコモ調査では4つの因子が抽出された。第一因子は項目番号1-4、第二因子は8-12、第三因子は5-6、第四因子は13-16である。一方PHS調査では2回とも3因子が抽出された。すなわちアステル調査では第一因子が7,13-15、第二因子が5-6,8-10、第三因子が2-4で、学生調査では、第一因子が5-9,15、第二因子が2-3、第三因子が13-14,10であった。
文献
 NTTサービス開発本部『日本人のテレコム生活-1991-』NTT出版、1991.
NTT広報部『NTTデータブック’95』1995.
大谷信介『現代都市住民のパーソナル・ネットワーク−北米都市理論の日本的解釈−』ミネルヴァ書房、1995
中村功「携帯電話の利用と満足−その構造と状況依存性−」『マス・コミュニケーション研究』48号、1996a.
中村功「兵庫県南部地震時の携帯電話の役割と問題点」『1995年阪神・淡路大震災調査報告−1−』東京大学社会情報研究所、1996b.
石井健一、川上善郎、中村功、是永論、辻大介「初期PHS採用者の利用実態」『情報通信学会誌』52号、1996.87-94